桐生が壁をぶち破る。日本は「東京五輪で9秒台がゾロゾロ」となるか (3ページ目)

  • 折山淑美●取材。文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

 それでも多田は100m予選ではラスト30mを流して10秒14を出し、「スタートがあまりよくなかったので、そこから焦ってしまった」という準決勝も10秒20。決勝に向けてそれなりの力を出す準備はできているように見えた。

「200mで20秒1~2台を出したいという気持ちもある」と話していた桐生だが、多田の調子がよさそうだからこそ、「東洋大のユニフォームを着て100mを走る最後のレース。ライバルを抑えて優勝で飾りたい」と、スプリンターの闘争心に火がついたのだろう。

「予選と準決勝では脚に不安がありましたが、100mの決勝のスタートに立つとなったら万全な気持ちで行きたいし、優勝を狙っていたのでスタートも怖いとかいうのを捨てて、自分の脚を信じて『肉離れしたら仕方ない』というくらいの気持ちで思い切りスタートを切った」と桐生は言う。

 決勝へ向かう彼の中には「9秒台を狙う」というような雑念は一切なく、勝つために走るという思いだけだった。さらに「決勝にならないとテンションも上がらないんです」と話していた通り、最上段までぎっしり埋まった観客席を見てさらにテンションは盛り上がったという。大会も自分のためだけに戦うのではなく、独特な雰囲気を持つ対校選手権。桐生にとっては大学生として最後の舞台と条件は揃った。そして風も、今年は10秒0台を連発しながらも常に向かい風だった分を一掃するかのような、追い風1.8mと絶妙な風速。そのすべてが桐生を後押しした形となった。

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