「ケニア人と勝負できる」。監督も太鼓判、
井上大仁が世界陸上マラソンに挑む。

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

 井上は、びわ湖までのわずかな準備期間でも、東京で2時間08分09を出した松村と同じポイント練習をこなすことはできていた。それに加えて、少し体が重い状態で15~16kmを朝夕1回ずつ走る練習を繰り返したことで、レース後半で粘れる力を身につけていく。

 さらに黒木監督は、自身が2008年から強化スタッフとして名を連ねる、日本陸上連盟のマラソン選手育成メンバーに井上を呼んだ。これまで、松村を含めた多くの代表選手たちが経験してきた海外での合宿や遠征で、設楽悠太や神野大地(コニカミノルタ)、富士通入りが内定している鈴木健吾(神奈川大)ら、若き有望選手たちと切磋琢磨させた。

 マラソンを走る土台を着実に築いていった井上は、今年のニューイヤー駅伝で2年連続の4区を担当。前半こそ苦しい走りをしていたものの、最後に盛り返して前年と同じ区間3位にまとめる。黒木監督が「この走りは絶対にマラソンで活かせる」と確信した通り、東京で粘りの走りを見せ、初マラソンの記録を4分以上縮めて世界陸上への切符を手にした。

「東京五輪を考えると、次の世界陸上は五輪前年の2019年10月ですし、世界レベルを経験できる機会はあまりない。今大会はいいチャンスですから、井上には攻めの走りをしてほしいです。最近の日本人ランナーは、2時間2分や3分という記録を出すのは無理だとしても、世界に挑む走りができていないのが問題です。それでは、海外のトップランナーとの差がますます開いてしまう。井上には、マラソン練習を始める前から『日本人ランナーではなく、海外のランナーを意識していこう』と伝えていますし、世界を驚かせるような走りをしてもらいたいですね」

 黒木監督の言葉通りの走りができれば、低迷を続ける日本男子マラソン界の救世主となる。8月6日に行なわれるレースで、井上がケニア人ランナーを差し置いて表彰台に立っている姿を期待したい。

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