勝つために遅く走る日本のマラソン新戦術「ネガティブスプリット」とは (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kanami Yoshimura/PHOTO KISHIMOTO

「ラスト2km、1kmで仕掛けるというのは、世界でアフリカ勢を相手にする場合厳しいと思うので、かつての高橋尚子さんや野口みずきさんのように、まだ15~20kmを残しているところで抜け出すというのが望ましい。堀江選手の飛び出しは非常によかったと思います。それに自分のペースを守って、今出せる自分の力を100%発揮して優勝した重友選手も含めて今後、世界大会でこういう走りができれば、メダルにはまだ遠いものの、入賞できる確率は高くなる。ただ、今回のレースは本当の世界のトップ選手と戦うには力不足というのは見ての通りだし、2時間23分台は出てほしい数字だったので、これから練習を積んでいくしかないというのが全体的な評価です」

 こう話す山下コーチは、このネガティブスプリットで記録レベルが低下してしまっては意味がないとも言う。一番強調したいのは「マラソンというのは、後半をしっかり走りきってこそのマラソン」ということだ。

「これまでは30kmまで、ただついていくだけのレースをしていましたが、それではあまりにも世界との差があると感じました。レース中に自分で判断するということはすごく勇気もいることですが、それを普段からやっていかなければいけない。今回も最初のペースが遅かった時に、誰か前に行ってくれればいいなとも思っていましたし、ペースメーカーを無視して最初からいける選手が出てきてほしいというのも本音です。特に暑い東京を考えると、勇気を持って行った時に逃げ切れる可能性もゼロだとは思わないので」

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る