勝つために遅く走る日本のマラソン
新戦術「ネガティブスプリット」とは

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kanami Yoshimura/PHOTO KISHIMOTO

 スタート時の気温は10.2度。風もほとんどない好条件でレースは始まった。スタートから想定より遅めの展開で進み、5km通過は17分21秒。そこからの5kmは17分05秒と想定通りの展開になったが、ペースメーカーが昨年11月の埼玉国際マラソンを2時間23分18秒で優勝したチェイエチ・ダニエル(ケニア)ひとりになると、12kmあたりからぐっとペースが上がった。それについたのは、昨年2位の堀江美里(ノーリツ)と吉田香織(TEAM R×L)、加藤岬(九電工)の3人だけ。20km通過時点では重友や初マラソンの田中華絵(第一生命グループ)などは21秒遅れる展開になっていた。

 ペースメーカーが外れてから、3人の先頭集団を重友などの第2集団が追う。25kmからは堀江が飛び出し、30kmまでを16分51秒で走って、2位に上がった重友との差を35秒まで広げた。だが、堀江の独走かと思われたそこから、重友が追い上げる。重友は30km、40kmを16分57秒、17分12秒と、安定した走りで駆け抜け、徐々にペースの落ちてきた堀江を35.5kmでかわしてトップに立った。結局、後半のハーフを1時間12分12秒で走り切り、2時間24分22秒でゴール。2時間23分23秒で優勝してロンドン五輪代表を決めた12年以来5年ぶりの優勝を果たした。

「ペースメーカーは想定より少し速めになってしまったけど、世界大会ではそういうペースの上げ下げが起きるのは当たり前なので、そこを含めてどう対応するかと思って見ていました」と山下コーチは語る。

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