勝つために遅く走る日本のマラソン新戦術「ネガティブスプリット」とは

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kanami Yoshimura/PHOTO KISHIMOTO

5年ぶりに大阪国際女子マラソンで優勝し、今年の世界陸上の有力候補に躍り出た重友梨佐5年ぶりに大阪国際女子マラソンで優勝し、今年の世界陸上の有力候補に躍り出た重友梨佐 8月の世界選手権ロンドン大会の選考レースでもあった1月29日の大阪国際女子マラソン。重友梨佐(天満屋)の優勝タイムは2時間24分22秒とレベルの高いものではなかったが、新たな方針を打ち出した日本陸連強化委員会・マラソン強化戦略プロジェクトとしては、それなりの成果を得られるレース内容だった。

 昨年、女子マラソンオリンピック強化コーチに就任した山下佐知子氏の発案で、今回新たに"ネガティブスプリット"という考え方を取り入れた。

 世界のレース展開の傾向として、五輪や世界選手権でも、前半は遅いペースで流れて後半が勝負になることがほとんどだ。そのため日本も前半に余裕を持って走り、後半にペースを上げて勝負する"ネガティブスプリット"のレースを試してみたいという意図があったのだ。

 これまでペースメーカーの設定は、2時間22分台を目標とした場合、5km16分40秒で30kmまで引っ張るというものだった。そうすると、最初からそのペースについていかなければいけないというプレッシャーもかかってしまう。一方、今回試したネガティブスプリットの考え方でいくと、5km17分05~10秒とペースが抑えられることで、前半に余裕が生まれる。その結果、選手自身がどのような走りで勝負をすればいいかを考えられるようになる。それも山下コーチの狙いのひとつだった。

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