【月報・青学陸上部】苦しんだ下田裕太は『君の名は。』に学んで走る (4ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun  photo by Aflo


「弾馬さんがいきなり動いて、それに対応しないといけなかったんですけど、思い切りついていって後半ペースダウンしてしまった。正直、練習ができなくて悩むことはないですし、昨年よりも状態はいいんです。

 ただ、昨年は主要区間でも自信を持って走れていたんですけど、今は......うーん、どうなんですかね。やってやろうという気持ちはあるんですけど、なんか言うだけっていうか。なんでだろうなぁ。箱根まで1回、落ちた方がいいのかもしれない。昨年の神野(大地)さんは、ここから箱根までの2か月間、相当切り詰めてやってきたんで、それを自分もやらないと...」

 全日本を初制覇し、みなが笑顔を見せる中、下田はひとり浮かない表情をしていた。
 
 下田は、いろんなものを背負い過ぎていた。3年生になり、自分たちの世代がチームを引っ張っていくことを強く意識した。一色に次ぐエースと言われ、出雲、全日本ともに主要区間に起用された。まだ3年生なので本来は自分の走りだけを考え、走ることに集中すべきだが、自分が結果を出し、流れを作り、チームを優勝に導く。4年生のような大きな責任を自らに課していたのだ。

 それが過度の緊張を生み、レースで余計なところに力が入り、いつもの走りを失わせたように見えた。調子がいいのに結果が出ないことで、メンタルもかなりダメージを受けているようだった。

"下田は大丈夫か"

 出雲、全日本と結果が出ない中、不安視する声が多くなった。しかし、原監督は冷静だった。

「これが今の下田の実力。何の実績もない選手がここまで成長してきた。今までのように壁を乗り越えてきたら、もっとすごい選手になるよ」

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