【月報・青学陸上部】エースの目にも涙。
4年生の快走で出雲を制す

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun   photo by AFLO


「(前を行く)東海大との差は気になりましたが、自分が一番気になっていたのは(後ろの)山梨との差でした。一色(恭志・4年)のところ(6区)までに最低40秒は離そうという話をチームのみんなとしていたんです。ただ、自分のところで差が縮んでいるのか、広がっているのか、よくわからなかった。ゴールした後、縮まっていなかったのを聞いて安心しました」
 
 2位でフィニッシュした茂木だが、東海大の差が縮まり、山梨学院大との差は44秒に開いた。3区で悪い方に傾き始めた流れを茂木が取り戻したのである。

 5区、安藤キャプテンは落ち着いて茂木を待っていた。

「本来、走るべき梶谷がケガをしてしまい、僕に順番が回ってきたと思うんです。梶谷からは『頑張ってください』と言われたし、『男を見せないと』と思いました。個人的には夏合宿にしっかり練習ができて調子がよかったですし、精神的にもいい状態でスタートラインに立てました。ただ、11秒差は正直、結構遠いなって思いました」

 襷を受けた安藤は、起伏のある直線コースをグイグイ走り、2.7km地点で首位の東海 大・三上嵩に3秒差まで詰めた。ここからふたりの心理戦ともいうべき駆け引きが始まった。安藤が少し前に出ると三上は離れずについていく。6km地点では三上がスパートするが安藤は襷を外し、握り締めて前に出た。抜きつ抜かれつで、出雲駅伝の歴史に残るデッドヒートを演じたのだ。

「後半、東海大との差が詰まってからなかなか抜けなかった。相手も粘っていたし、自分もキツかった。最後、相手よりも少し前に出た時に襷を外しました。襷を握ると力が出るかなって思ったからです。残り300mぐらい で一色の姿が見えて『よしっ』と思ったし、襷を握ったおかげで腕が振れた。最後の力を振り絞って走ることができました」
 
 安藤と三上は最後まで競り合った。

「こいっ!」

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