五輪で3人の明暗。男子100m9秒台の壁を最初に超えるのは誰か (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 そんなふたりに比べ、悔しい思いのみで終わったのが桐生だった。予選は第7組で、いきなりボルトと同組という厳しい組み合わせになった。それに加えて、第4組のケンブリッジが2着で準決勝進出を決めていたことも影響したのだろう。スタート後の一歩目から力んだような走りになってしまい、10秒23で4位。彼らしいところをまったく出せず、あっけなく予選敗退となってしまった。

「五輪までの1年間はいろいろあって、その集大成となる五輪がこの結果だと思うので、自分はまだまだだという感じです」

 昨年は肉離れで8月の世界選手権出場を逃した桐生だが、秋に復帰してからは順調に見えた。しかし、春先に調子を落としたかと思えば、6月の布施スプリントで10秒09を出し、続く日本学生個人選手権では自己タイの10秒01を出す好調さも見せるなど、波のあるシーズン前半でもあった。その不安定さがこの五輪で出てしまったと言える。

 表情を見ていると、13年に10秒01を出して以来注目され続け、9秒台への期待をひとりで背負ってきたことでの精神的な疲労感も見え隠れする。彼自身が「日本一は自分でありたい」という自負があるだけに、日本選手権が自分らしい走りさえできずに3位に終わった悔しさも大きい。そのトップの奪還を意識し過ぎたことで、自分の心のリズムも崩してしまったのかもしれない。

 その意味でも、この大会の予選敗退という結果とその悔しさが、彼がまたひとりのスプリンターとして挑戦する立場に戻れる契機となればいいのだが。

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