伝説のシューズ職人・三村仁司「左右のサイズの違いに注目して」 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 杉原照夫●写真 photo by Sugihara Teruo

「体が大きな外国人だったら、多少クッション性が高くてもそれを潰せますが、日本人の場合は着地で足が振れてしまい、靱帯などに負担がかかって故障につながりますし、リズムが取れなくなる。今の選手はそういうのに小さい頃から慣れてしまっています。

 以前は(ソールの厚さが)つま先で8㎜くらい、踵(かかと)は12㎜くらいでしたが、今はつま先が13㎜くらいで、踵は2㎝もある。瀬古利彦や宗兄弟の時代に、今と比べて故障が少なかったのは練習も薄い靴でやっていて、その状況で脚の筋肉も鍛えられていたからだと思います」

 シューズの選び方も、走る距離やスピード、接地面がアスファルトなのか、芝生なのかによって変わってくる。たとえば、ロードをゆっくり2~3時間走るなら、疲れにくいように多少クッション性の高いシューズを履き、インターバルやリズムを重視するペース走なら、試合用と同じくらいのシューズを履かなければいけない。だが、そこまで気を使っている選手や指導者は少ないのではないかという。

「マラソンシューズとしての理想の硬さや厚さはありますが、選手それぞれの感覚もあるから、それを考慮して、いかに理想の数値に近づけるかです。

 走りやすいようにするためには、いろんなデータを取って『お前にはこのくらいの厚さで、このクッション性がある素材のソールがいいよ』とか判断してあげないといけないわけです。

 たとえば、リオ五輪女子マラソン代表の伊藤舞(大塚製薬)の場合は足首の柔軟性が少しないので、これまでより少し可動範囲を広げられるようなクッション性のいいものにして、ソールもフラットでは走れないので、ヒールを少し高くしたものを作らなければいけないと考えているんです」

 個人によって履くべき靴は違う。「みんなが履いているから」とか「売れているから」という理由だけでシューズを選ぶのは間違っているという。市販品も今は多様な種類が出ているので、その中から自分の走りに合っているものを選ばなければいけない。

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