【月報・青学陸上部】いざ夏合宿へ。充実の記録会で、それぞれの想い (2ページ目)

  • 佐藤 俊●文・写真 text & photo by Sato Shun

 走り終わると各組の選手たちが揃って、原晋監督のもとへタイムと順位を報告に来る。原監督はマネージャーから順位の報(しら)せを受け取っているが、「どうだった」と必ず全員に話を聞き、反応を見る。現状と合わせて、1年生以外は昨年からのこの時期までの流れを把握しているので、タイムの比較だけではなく、選手としてどのくらい成長しているかを判断するのだ。

 次のレースまでの空き時間だった。

「監督、お話があります」
 
 さっきレースを終えた稲村が神妙な表情で原監督の前に立った。

「自分は選手をやめて、マネージャーになりたいと思います......」。稲村は緊張した声でそう言った。

 箱根を目指す選手にとっては、3年生の夏合宿前が現役続行か否かの最終的な分岐点になる。小関マネージャーがそうだったように設定タイムをクリアできなければ、ケジメをつけなければならないのだ。話を聞いていると稲村は、この世田谷記録会がラストチャンスと決めていたようだ。

 しかし、稲村の申し出を原監督は、すんなりと受け入れはしなかった。

「おまえ、そういう考えじゃマネージャーになってもええ仕事できんぞ」

 聞こえてきたのは原監督の怒気を含んだ声だった。稲村はレースで故障をしたので帰りは部の送迎車で帰りたい、難しいならタクシーで帰りたいということだった。原監督は仲間だから故障しているのであれば乗せる。だが、稲村が乗ることで1人の主力選手が乗れなくなってしまう。故障したから当り前に乗れるとか、金さえ払えばいいのではなく、譲ってくれた仲間への感謝の気持ちが見えなかったのが原監督は我慢ならなかったのだ。

 そうした自分本位な考えでマネージャーをやってもうまくいかないのは、これまで多くの学生を見てきた原監督にとっては容易に判断できることだった。

「誰でも最初は裏方に回るのは抵抗があるんです。その時は嫌でも最終的に裏方で輝く子もいる。卒業して社会に出て行ったら、あの時、マネージャーになって良かったってなるんです。そういう輝くステージを私が用意してあげることも重要なことなんですよ。

 ただ、いいマネージャーになるには、自分本位じゃダメだよ。本質的なところで考えが間違っていたら怒る。そこを直さないと違う事象で、また同じ間違いを繰り返すことになる。それじゃ成長しないし、失敗ばっかりして社会でも嫌われ者になってしまうんでね」

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