100m日本記録保持者・伊東浩司から日本陸上界への提言

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi photo by Tsukida Jun/AFLO SPORT

「結局、ナショナルチームにステイタス感がないことが問題なのだと思います。我々の若い頃、約20年前は、日本人は国際大会になかなか出られず、当時世界レベルで唯一戦えていた高野進さん(400m日本記録保持者)の存在があったから、私も何とか出場できていた。ですから、『国際大会は貴重な経験の場。どんな大会でもいいから代表に選ばれて走りたい』という思いが強く、ナショナルチームは特別な存在だった。

 今は、ジュニアの選手は『全日本の合宿へ行きたい』という思いがまだ強いと感じますが、シニアの場合、そういう気持ちが希薄といえます。そこはサッカーや水泳などに比べると陸上の弱いところだと思いますし、せっかくの国際大会をただ消化しているだけになっていると思います。

 サッカーなどの他競技のように、シニアとジュニアの関係が密接になり、例えばA代表の監督の下にB代表の監督やコーチが入ったりする形になることも必要でしょうね。

 それに、私が(A代表の)短距離部長を務めた2年間は、ジュニアの情報がほとんどなくて、世界ジュニアの代表がどのような基準で選ばれたのか知らなかったくらいです。それでも、世界リレーを終えてからは、若い選手をドンドン使わなければダメだと思い、山崎一彦強化副委員長と相談をして、デカネーションやコンチネンタル杯には高校生も起用しました」

 シニアだけではなく、ジュニアの国際大会も増えた昨今、選手を派遣したいと思っても、大学生や高校生だと今は出席日数などが厳しくなり、地方大学などは遠征を公欠扱いにしてくれるところがほとんどないという。

 選手に日本代表に決まったと通知すると同時に、事前に教育現場へ働きかけて話を通しておかなければ、代表に選んでも「出られない」と断られることもある。「多様な現状を考えて動かなければ、代表チームの活動が制限されてしまう」と、伊東氏は現場対応で改善すべき点がまだあると指摘する。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る