【陸上】男子短距離陣、成長のカギは「複数種目挑戦」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by(C)Takamitsu Mifune / PHOTO KISHIMOTO

 原動力になったのが、1走を務めた400mのエース・金丸祐三に続いて、2走と3走を務めた藤光と飯塚だった。ともに200mが専門の選手。伊東部長はメンバー4人を指定し、それぞれの選手が自分たちの役割を明確にするためにと、選手自身にオーダーを決めさせた。それで金丸の1走から先行逃げ切り策をとり、藤光は44秒6、飯塚は45秒6のベストラップでつないで、4走の加藤修也につないだ。その時点で2位に3秒26差をつけるほどの完勝だった。

 伊東部長は以前から「僕や朝原宣治が記録を伸ばしたころは100mと200m(の2種目)をやっていた。今の選手にも単種目に絞ることなく複数の種目をやってもらいたい」と話していた。現に今大会2冠のオグノデは前回大会で200mと400mの2冠を獲得していたし、ウサイン・ボルトも200mだけではなく以前は400mもやっていた選手だ。成長するためには若いうちから複数の種目をやることが必要だ。また、マルチスプリンターが複数いることは、2種目のリレーのレベルをあげる底力ともなる。

 今回の4×100mリレーでは、37秒台を目標ではなく現実のものにしなければ世界とは戦えないことを実感させられ、選手たちはそのためにも9秒台が必要条件だという意識を持った。また4×400mリレーではマルチスプリンターの威力を再認識できた。

 今回ケガで欠場した桐生は高校時代から100mと200mの2種目をやることは普通だという意識を持っているし、山縣も今年は腰の故障もあって走れなかったが、リオデジャネイロ五輪は100mと200mの2種目で出場したいという目標を持っている。また、高瀬も今大会100mで銅メダルを獲得したが、来季からは本格的に2種目に挑戦したいと語っている。200mで悔しい思いをした飯塚も、前半を楽に速く走るためには100m挑戦が必要不可欠だということを再認識したと話していた。

 こう話す彼らがたまには400mにも挑戦するようになれば、400mを専門にする選手たちに、自分たちもショートスプリントへの挑戦が必要だという意識を持たせるキッカケになるだろう。

 そんな種目間の風通しを良くするためには、各競技会の日程見直しも必要になってくる。特に日本選手権は近年3日間開催で、選手たちが複数種目への挑戦を敬遠するようになっている。100mと200m、200mと400mなど複数種目挑戦が普通の意識でできるような日程になれば、状況も少しずつ変わってくるはずだ。そんな試みこそが短距離のみならず、トラック&フィールドの底力を向上させる力になる。

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