【陸上】男子短距離陣、成長のカギは「複数種目挑戦」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by(C)Takamitsu Mifune / PHOTO KISHIMOTO

 さらにその2日後の200m決勝も、日本チームにとってはショックな結果だった。翌日の4×100mリレー決勝に集中するためなのか、中国勢は準決勝で張が22秒74と勝つ気を見せない走りで敗退し、謝震業は故意とも取れるフライングで失格。それなのに日本勢はライバルが少なくなった決勝で、飯塚が20秒84で4位。原は20秒89で5位という結果に。第6回大会以降11大会連続で獲得していたメダルを逃した。

 そんな危機感に追い打ちをかけたのが、10月2日の夜に行なわれた4×100mリレー決勝だった。

「選手の優先順位は藤光(謙司)だったが、彼が4×400mリレーの核にならなければ勝てない。それでアクシデントで動揺もある4×100mリレーは、経験と実績のある高平を精神的な主柱として3走に起用した」と伊東部長は言う。

 だが謝と蘇と張を2、3、4走に置いた中国は、4走の張にバトンが渡った時点で3mほど日本をリード。張がスピードに乗り、日本が長年狙ってきた37秒台(37秒99)でアジア新記録を樹立。日本は苦しみながらも38秒49で2位と健闘したが、予想以上の完敗だった。

 山縣は、「レース前から中国のリレーに懸ける気持ちが伝わってきた。今後は僕が柱にならなければいけないし、もっと気持ちを引き締めてやらないとアジアでも勝てなくなる」と話す。また高瀬も、「自分たちが37秒台を出せるコンディションに持っていけなかったのは悔しいが、個人的にはこの状態でもリレーを走れたことは、今後の自分の中で大きな強みになると思う。チームとしてはこれでもう37秒台を出さなければアジアで勝てないことが分かったし、来年の世界選手権でメダルに絡む争いをするためにも、この負けで悔しさを味わったのは重要」と振り返った。

 伊東部長は選手たちに、「レースを2~3本走っただけで壊れているようではダメ。国内での春先の競技会ばかりを頭に置くのではなく、海外を経験して世界の状況を正確に捉えながら大きな大会にピークを持っていくことの必要性を知り、選手たちには成長してもらいたい」と要求する。

 その一方で、大きな収穫もあった。それは5月の世界リレー選手権では8位以内に入れず、来年の世界選手権の出場権を獲得できていない4×400mリレーが、強敵のサウジアラビアを破って4大会ぶりの優勝を果たしたことだ。

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