2014.07.25

【陸上】桐生祥秀。底力を発揮して日本人初の銅メダル

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 実はその準決勝のレースで、桐生は終盤に右股関節の回りの筋肉が痙攣して痛みが出ていたという。土江コーチは、「力みがそのアクシデントの要因になった可能性は当然ある」と振り返り、「久しぶりの速い動きに筋肉が対応しきれなかったという面もあるだろうが、競り合いの経験が足りないことも、こういうアクシデントを引き起こしてしまった原因だろう」と話した。

 歩くのにも苦労するほどの痛みが出ていたが、トレーナーにケアをしてもらい、約2時間半後の決勝では、15分前になってやっと体を動かした程度で迎えた。桐生はそこで「準決勝は硬くなった部分があったけど、決勝になったら『もうタイムなんて関係ないな』となってきて......。準決勝はブロメルの10秒29以下はみんな30台だったので、そこはもう『勝負だな』と思いました」と開き直った。

 決勝の桐生は2レーンで、6レーンのブロメルとは離れていたのも幸いした。スタートは準決勝の時よりも若干硬さのある動きだったが、勝負を意識したブロメルの動きも硬く、60m過ぎまでは先頭に並んでいた。だが、股関節の周りの痛みが残っていた影響からか、70m付近で膝の裏の筋肉が攣(つ)ってしまった。

「そこからは片方が治れば反対側が攣るという繰り返しで。自分の順位を確認するより、走り切ることだけを考えていました。70mくらいまでは他の選手と差がないこともわかっていたし、相手も視野に入っていました。アクシデントに見舞われたけど、逆に相手が見えなくなって気にしなくなったから良かったのかな、とも思います」

 こう言って笑う桐生だが、そんな状況でも粘りきった。