【世界陸上】福士の銅メダル、木崎の入賞に影響を与えた野口みずきの存在 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 築田純/アフロスポーツ●写真 photo by Tsukida Jun/AFLO SPORT

 ただそんな日本勢の結果にも、野口の存在が大きく関与していたことは確かだ。福士を指導するワコールの永山忠幸監督は「野口さんと2ヶ月以上も生活を一緒にさせてもらっている中で、ひと言ひと言が、福士のマラソンに対する甘えを取り除いてくれたのだと思うし、彼女を成長させてくれたと思う」と話す。そして武富部長も「福士さんは貧血で苦しんでいたが、野口さんと一緒にトレーニングをすることで、いろいろな刺激をもらい、練習のコツやレースに対する心構えなどを学んだ。今回の3位は、そういうものがあった上での結果だったと思う」と話す。

 それは粘りきって4位を確保した木崎にも言えることだろう。日本陸連が最大5人の枠があった今回の代表を、「戦う意識を持たせるために」と3人に絞ったことも、「結果を出さなければいけない」というチームとしての意識の結束にもつながったはずだ。さらにチームのなかに、五輪金メダリストでありながら、苦悩の末に復活してきた野口がいることで、プレッシャーも軽減され安心感も増幅された。そんな存在である野口が遅れたのを知っているからこそ、左足底がしびれるキツさの中でも、「最低でも入賞を果たさなければ」という気持ちを持ち続けられたのだろう。

 まさに今回の日本チームのメダル1、入賞1という結果は、野口みずきという強烈な存在感に後押しされたものと言える。

 さらに野口自身も、「福士さんや木崎さんがあれだけやれるなら、もっと練習ができていた私にもまだまだできるはずだ」という気持ちを持った。

「走れるうちはいつまでも走りたいし、どうせなら日の丸をつけて世界と戦いたい」という野口は、長引いた故障が癒えた今、これからの自分はどれだけ速く走れるか挑戦してみたいという夢を持っている。

 飽くなき闘争心を持って貪欲にマラソンに取り組む野口は今でも、日本女子マラソンの大黒柱でなくてはならない選手である。そんな彼女の復活こそが、福士や木崎だけではなく、あとに続く多くの選手たちを刺激し、日本女子マラソンを復活へと導いていく力になるはずだ。

 だからこそ野口みずきは、まだまだマラソンから足を洗えそうもないのだ。

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