2013.06.29

【陸上】初の海外レースへ挑む桐生祥秀へ、世界を知る男たちからの助言

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●写真 photo by Fujita Takao

 そんな挑戦者の気持ちに戻れたからこそ、翌週のインターハイ近畿大会では、100mで自己セカンドベストの10秒17をマークし、200mでも20秒41の高校新という、実力通りの走りを披露できたのだろう。

「日本選手権では自分のレースが出来たような感じがあったけど、硬くなった部分もあって、実際には思うように出来ていなかった。1回負けたことで、織田の10秒01に満足していたら日本でも勝てないということがわかって、近畿大会ではうまく修正できたというか、自分の持ち味である中盤からの加速を生かす走りができました」

 こう話す桐生に、伊東部長は「織田では予選の10秒01と、追い風2.7mの中で一生懸命走った決勝の10秒03を彼は同じ感覚で走ったとコメントしていた。だが私の経験から言えば、追い風が2mを超えると動きがまとまりきらずに感覚はものすごくかけ離れたものになる。だから01と03の感覚をグーッと詰めていき、彼の中に真の感覚を確立させるのが必要だろう」とアドバイスする。その感覚を確実なものにするためにも、高いレベルのレース経験を積み重ることが重要だ。

 現役時代はヨーロッパで数多くのレースを経験した大阪ガスの朝原宣治コーチも、「100mというのはスタートをしてしまったら考えて走れない種目。だから練習で『次のレースはこういう風に組み立てて』という世界ではないような気がします。結局は無意識の中で動きを自動化してレースを組み立てなければいけない。それは練習でなかなか出来ないから、レースで作っていくしかないと思う」と、経験の大切さを語る。

 続けて9秒台の選手の強さと、日本選手の課題をこう説明する。

「前半で前にいたとしても、9秒台の選手は中盤が速いから、そこで必ず前に出てくる。その時に自分が冷静にピッチを刻めるか、となると難しいので、そのあたりが勝負ですね。今の桐生くんや山縣くんは、僕や伊東さんの頃と同じで、条件が相当そろってリラックス出来てやっと9秒台を出せるギリギリのレベルだと思うんです。桐生くんの場合、10秒01を出した時は9秒台がどんなものだかわからなかったでしょうね。でもその重みを知ってしまうと大変だと思うから、(今のうちに)もう一段上のレベルに行くことが必要ですね」