【陸上】日本短距離界に大きな刺激。桐生祥秀vs山縣亮太が生み出す力。 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本勉●撮影 photo by Kishimoto Tsutomu

 山縣は中盤あたりからグーッとスピードに乗り、ラストでも力を入れずに楽に走れているとわかった瞬間、「多分抜かれることはないな」と勝利を確信し、桐生は、50m過ぎで先行する山縣の姿が目に入り「追いつけなさそうだ。無理かもしれない」と心の中で負けを覚悟したという。

 ただ、山縣にしても今季の桐生の急成長は貴重な刺激だった。

「自分が織田記念の前に9秒台を出すと決めていた部分もあったから、記録を狙って硬くなっていた面があったと思うが、桐生くんが予選で10秒01を出したことで、余計に9秒台にとらわれて硬くなった面もあります。その後の関東インカレでも『少なくともA標準は切りたい』と思って走っていて、結局いい走りができなかったから……。そういう風に狙ってタイムを求めていると、なかなか自分の走りができないという春シーズンを通して思ったのは、『狙わない方がいい』ということでした」

 山縣の心の中には、「できれば桐生より先に9秒台を出したい」という強い思いがある。それは自分が一番乗りをしたいというよりも、9秒台を出せば時代の寵児と注目され、マスコミに取り上げられる状況が待っていることを知っているからだ。そういうものまで受け入れられる心の準備が必要だと。

「桐生くんが持っているものはすごいと思うし、自分にないものも感じる。だからこそこれから切磋琢磨して、一緒に強くなっていきたいな、と思う存在」

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