「次の目標は9秒96」。桐生祥秀が巻き起こす日本短距離界の競争激化 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●撮影 photo by Fujita Takao

 優勝のロジャースとは0秒21差だが、初となる外国人トップ選手との戦いでの3位は、大健闘といえる結果だった。

 昨年の秋に10秒21、10秒19とユース世界最高記録を連発した桐生。彼がその注目度をさらに高めたのは4月29日の織田記念だった。前日の練習中に「初めてのシニアとのレースだけど、いつものようにリラックスして楽しく走りたい」と話していた彼は、予選で昨年よりも上体のブレのない走りで同走の高瀬慧(富士通・ロンドン五輪200m準決勝進出)や飯塚翔太(中大・ロンドン五輪出場。10年世界ジュニア200m優勝)を中盤から引き離してゴール。世界ジュニア記録タイの10秒01を叩き出したのだ。

 ロンドン五輪100m準決勝進出者で10秒07の自己ベストを持つ山県亮太(慶大)を追い抜き、一気に9秒台突入の一番手に躍り出た瞬間だった。「10秒01が出たのは、自分でもビックリしました」と桐生は驚いていたが、9秒台を期待された決勝ではさすがに硬くなってしまった。追い風2・7mと公認記録にはならない条件となったその決勝レースでは、ゴール直前でバランスを崩す場面も。それでも山県に0秒01競り勝つ10秒03で1位になり、10秒01がフロックではなかったことを証明した。

「僕はラストでスピードが上がるということはないので最後は一杯一杯で相手の減速を待つしかなかった。だからあの展開で抜けそうかなというのは感じなかった」と山県に言わせたほどの速さを見せた桐生は、レース後の会見で9秒台への意欲をこう語った。

「高校記録も去年は大瀬戸一馬さんに先に出されたし、4×100mリレーも滝川二高に先に高校記録を出されて自分が最初に記録を更新したことがない。だから9秒台は先に出したいですね」

 また会見後には、「10秒19から一気に記録を伸ばしてしまったけど、これからは小刻みにいきます」と、落ち着いて話していた。

 織田記念から6日後のゴールデングランプリへ向けて、日本人初の9秒台という桐生への期待はさらに高まっていった。だが彼は「期待されるのは嬉しいけど、9秒台、9秒台と言われても、自分はどちらかというと10秒0台をもう一度出して、しっかりした大会で9秒台を出すというイメージがあるんです」と冷静だった。

 さらに、ゴールデングランプリのレース後も「9秒台がそんなすぐに出るとは思っていないので、この大会は順位を意識しました。だから、9秒台の選手に勝って3番というのは良かったと思います」と話した。

 そして、彼は高校の部室の黒板に、次の目標タイムを「9秒96」と書いたことを明かした。「何となく頭の中に浮かんだ」数字だという。

「9秒台の選手と走っても、前半はそこまで(前に)行かれていない気がした。これからは後半のストライドやピッチをもう1段階上げていけば、勝負できると思っています。だから、学校へ帰ってからはミニハードルを使って、しっかり踏み込んでスピードが出るような練習をしたい」

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