【陸上】男子マラソンは、なぜ市民ランナー川内優輝に勝てないのか (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Nikkan sports

 そんな川内の唯一の課題といえるのが、トップ選手になった今、狙ったレースでどう結果を出していくかということだった。2011年の東京マラソン快走で一躍注目されたころ、彼にはまだ背負うものがなかった。

 近年、日本男子マラソンが低迷する理由のひとつとして、期待された実業団選手たちの心の中に「給料をもらって競技をしている以上、走って当たり前と思われる」という重圧や、「自分が何とかしなければ」というような気負いがあった部分もあるだろう。そんな思いが前半の走りを固くさせるうえに、無駄なエネルギーを使わせ、後半失速するという結果につながっていた。

 当時の川内は、それには無縁だったからこその快走とも言えたが、五輪が掛かった2012年の東京マラソンは違った。結果を意識し過ぎたためか、走りには序盤から硬さが見えた。それが中盤からの失速につながったといえる。

 そんな川内だったからこそ、今回の別大での勝利は大きい。最初から優勝と世界選手権を狙った必ず結果を残したいレースでありながら、力みもなくうまく走り、中本とのデッドヒートを制すと、自己新でゴールという結果を残した。これは大きな自信になるはずだ。

 レース後に「いろいろ磨いてきた技術と経験を活かせた。海外のレースも経験してポジティブになれた」と話した川内は、最強の市民ランナーから、“普通に強い日本のトップランナー”のひとりへと脱皮した。

 まだ25歳でこれからが本当に脂が乗ってくる時期。今後、彼が2時間7分台に止まらず、世界でも勝負できる6分台や5分台に向け、どんな挑戦をしていくのか見守りたい。

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