2013.02.09

【陸上】男子マラソンは、なぜ市民ランナー川内優輝に勝てないのか

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Nikkan sports

 川内の最大の武器は、最もきつい場面を気持ちで押し切れる強さだ。本人いわく、「小学生の頃は毎日母親に連れられて、公園でタイムトライアルをしていました。しかも最後まで全力で走りきらないと叱られたので、それが今、最後まで全力を出せる要因かもしれませんね」と笑いながら語った。その気持ちの強さに加えて磨きをかけているのが、レース経験と、それぞれのレースで、「常に全力で走り切ろう」という姿勢。

 以前「マラソンというのはレース経験が大事。その点僕の場合は、他の選手より経験が豊富ということが、アドバンテージになる」と話していたが、先述通り、外国勢が給水所を利用して揺さぶりをかけて来る戦法を、すぐに試してみようとする探究心もあった。五輪代表がかかった昨年2月の東京マラソンで給水ミスに泣くと、アフリカ勢が集団の前に出て確実に給水ボトルを取っているのを参考にして、今回はすべてを成功させるなど、ひとつひとつの経験を積極的に取り入れようとしている。

 さらに、昨年12月2日の福岡国際マラソンで走ると、2週間後の16日に防府読売マラソンで優勝した。年が明けてからは、1月13日に谷川真理ハーフマラソンで優勝すると、1月18日にはエジプト国際マラソンでも優勝。翌日の19日に帰国して、休む間もなく20日には県庁チームの一員として埼玉県駅伝に出場し、1週間後の27日に奥むさし駅伝に出場している。そして中6日で別大マラソンを走るというすさまじいスケジュールをこなした。

 その過酷さを新聞は「化け物」と名づけたが、川内にしてみれば特別無理をしている気はないよう。1泊4日という強行スケジュールで出場したエジプトこそハードだったが、彼にとってその後の駅伝はまさに、思い描くマラソンに向けてのスピード練習という位置づけでしかなかったはずだ。それは誰もが練習でやっているパターンでしかない。しかし、それを彼はレースでやっているから注目されるだけなのだ。

 実業団の選手たちは週に2~3回のポイント練習をして、その間は軽めの練習で体調などを整えているのが普通だ。だが川内は、通常のポイント練習を水曜日の練習と、土曜日か日曜日のレースで代用している。さらにその間は「実業団の選手と比べたら本当に遅い」と本人が言うジョギングでつなぎながら、うまく疲労を抜いているのだ。

 レースを利用して走力とタフさを身につけようとする取り組みと、時間が限られているからこそ1回1回の練習に集中することで、実業団選手より短い月間走行距離でも結果を出せているのだろう。