【マラソン】日本女子マラソンは、なぜここまで低迷してしまったのか (3ページ目)

  • 折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kitagawa Toshihiro

「私たちの頃は自分で考えながら練習や補強をしたし、ケガをしても自分で何でこうなったかと考えて、必死になって自分の体で覚えたものだけど、今は各チームにトレーナーがいて環境も整い、練習も自分でやるのではなく、コーチが作るメニューに乗ってやるという、お膳立てされた中でやっている感じですね。それに選手も常識的でいい子過ぎるというか、強い選手がいても『あの人は強いですから』と尊敬するだけで、『倒してやろう』というようなギラギラしたものがないかなと。それを私たちがどうするかというところですが」と、91年世界選手権2位の第一生命・山下佐知子監督は言う。

 武冨部長は「金メダルを獲ったノウハウを無にしてしまうのはもったいない。ケガをしてもいいから、高橋尚子さんや野口みずきさんたちと同じような練習をしてみたいと思う気持ちの強い子を集めて合宿をするということも考えたい」という。

 だがその一方で、来年の世界選手権に向けて「フル枠5名を選ぶかどうかも考えなければいけないかもしれない」とも言う。

 そんな思いには山下監督も「個人的な意見だが」と前置きしながら賛成をする。

「それで代表に選ばれちゃうから、日本人1位を最優先でというのが多い気がするし、それが弊害かなというのはありますね。だから選考のハードルを高くして、『こんなレースをしていたら日本人1番になっても選ばれないんだ』と思わせなければ。そうなれば選手も指導者も目の色を変えて、もっと練習をして、攻めるレースをしなきゃいけないと思うはずです。私もロンドン五輪に向けて、日本人同士の争いを意識していたけど、次はもっと攻めのレースを選手にさせるつもりです」

 かつては選手もコーチも世界のメダルを狙い、本気で攻め合っていた。だが低迷するとどうしても基準は低くなり、それでまた選手の力も気持ちも落ち込んでくる。そんな状況を打開するためには、無理して出場枠を埋めないという荒療治も必要だろう。

 競泳は独自の派遣標準記録を設定し、それを厳守して強くなった。世界から遠い種目ではなく、一度は世界をリードしていたマラソンだけに、今こそ厳しさが必要だ。

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