【車椅子マラソン】土田和歌子「諦めない気持ちが導いた、8年越しのフィニッシュライン」

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 土田はスタートから先頭グループでレースを進めていた。「過去最高の難コース」と言われたレースも順調に距離を重ねた20km過ぎのことだった。

 6人に絞られた先頭グループ内で互いにけん制し合い、少しペースが落ちていたため、積極的にペースをあげていこうとした土田は、ちょうどさしかかった左カーブで遠心力に負け、外側にバランスを崩して転倒。右肩や腕などを強打した。つばぜり合いをしていたライバルたちの背中はあっという間に遠ざかっていった。

 転倒直後は痛みとショックですぐには起き上がれなかった。だが、沿道の温かい声援に励まされ、これまでの日々を支えてくれた家族やスタッフなどさまざまな顔が一人ひとり思い浮かび、土田を勇気づけた。「みんなのためにも、ゴールに帰ろう」

 再び走り出した土田は、ライバルたちの見えない背中を追い、一心不乱にゴールを目指した。諦めずに走り続ければ、ゴールは必ずやってくる。

「決して満足な結果ではありませんが、フィニッシュラインを踏めたのはよかった。自分として、このレースを終えられた瞬間でした」

 北京では見ることさえできなったフィニッシュラインをロンドンでは越えられた。金メダルに向かってさまざまな試練を経て走り続けてきた長い長いレースもまた、一応のフィニッシュを迎えたことになる。

「たくさんの人から勇気をもらってきた」という土田の不屈の挑戦もまた、多くの人の勇気になったはずだ。今年で37歳。「今はまだ先の目標は見えない」という土田が、たとえ次に、どんな「レース」を選んだとしても、これからも応援したい。

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