【陸上】ボルトだけじゃない!陸上競技を盛り上げたロンドン名勝負3選

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

アテネ五輪以来、2度目の金メダルを獲得したサンチェスアテネ五輪以来、2度目の金メダルを獲得したサンチェス 100m、200mの優勝に続き、アンカーとして出場した4×100mリレーでは史上初めて37秒台突破となる36秒84で世界記録を更新したジャマイカのウサイン・ボルト。ロンドン五輪での陸上競技の主役らしく華やかな名場面を演出したが、この他にも感動的な勝利でスタジアムを沸かせた選手たちがいた。

 まずは男子400mハードルに出場したフェリックス・サンチェス(ドミニカ)。大会前に挙げられていた優勝候補は、昨年の世界選手権2位で今季47秒台を2度出しているジャビアー・クルソン(プエルトリコ)、昨年の世界王者のデイビット・グリーン(イギリス)、北京王者のアンジェロ・テイラー(アメリカ)ら。だが、決勝進出した上位4人までが47秒台というハイレベルな準決勝を1位で通過したのは、サンチェスだった。

 8月30日には35歳になるサンチェスは為末大より1歳年上で、為末がライバルとして追い続けた選手。2001年7月のザグレブ国際で為末に敗れて2位になって以降は04年まで43連勝を記録。01年と03年には世界選手権を制し、04年のアテネ五輪では金メダルを獲得するなど一時代を築いた。

 しかし、その後は故障もあって低迷。07年世界選手権2位と復調の兆しを見せたが、08年の北京五輪では予選敗退。その後の世界選手権でも決勝には残っても優勝争いには加われず、今シーズンのベストタイムはランキング9位となる48秒56。もはや過去の選手になってしまった印象が強かった。

 だが決勝では前半から積極的に飛ばし、最後の直線に入って競り合っていたクルソンやテイラーを競り落としてトップでゴール。奇しくも優勝したタイムは、アテネ五輪とまったく同じ47秒63だった。

 この種目で日本人初のファイナリストの経験がある山崎一彦氏は、「(サンチェスは)小さな大会にも出るようになって、タイムも良くなかったし、生活のために来ているんだなと思っていたけど......。正直、『もう終わりなのかな』と寂しい気持ちになっていたんだけど、まさかね」と、サンチェスの優勝に驚きを隠せなかった。

 その表彰式も感動的だった。表彰台に上がる前から嗚咽(おえつ)していたサンチェスは、国旗掲揚が終わるまで、込み上げる涙を抑えきれずに泣き続けた。場内の観客もそんな彼を、大きな拍手で称えた。

1 / 2

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る