【陸上】野口みずきの希望に満ちた6位
「まだいけるかもしれないと思った。だから辞めません」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by (C) Wataru NINOMIYA / PHOTO KISHIMOTO

 トップ集団に追いついた野口は、30kmまでの5kmに17分35秒もかかっていた先頭集団を活性化させた。31km過ぎでは野口が先頭に出てペースを上げると、32km過ぎでは尾崎好美が仕掛ける。激しい競り合いで徐々に人数が絞られていく中、33km過ぎでついに野口は、「追いつくところまでで脚を使ったので、勝負にまでは持っていけなかった」と尾崎や中里麗美など4人の集団から離され始めた。

 レース序盤も野口は、やっと戻ってきたマラソンの舞台に高揚したのか、ペースメーカーと並んで走ったりするなど、集団内での動きは激しかった。そんな力みともいえる動きのツケも、最後に出てきたのだろう。

 だが彼女はそこから大崩れしたわけではなかった。中里と尾崎の競り合いとなった日本人トップグループの30kmから35kmまでのラップタイムは、17分12秒で、野口の同区間はそれに32秒遅れるだけのものだった。そして、6位でゴールした時の計時は2時間25分33秒。2位で日本人トップになった尾崎とは1分19秒の差しか開かなかった。

「走り切れて良かった。努力が報われた」

 そう思って感動したという野口は、両目に涙を溜めてゴールした。

 自分の長所を「後半のほうが元気になること」という彼女が、最後で遅れをとったのは、予定していた大阪国際マラソンを直前でキャンセルするなど、レースに向けての準備が万全ではなかったためだ。この完走を自信にして、じっくりと仕上げてレースに臨めば、まだこれ以上の走りも記録も期待できる。

「ここで走ってまだいけるかもしれないと思った。だからまだ辞めません」

 レース後の会見でこう口にしたのも、彼女にとっては当然のことだ。彼女の夢は、「ボロボロになるまで走り続けること」だから。

 目標だったロンドン五輪への道は途絶えたが、野口の夢への挑戦は再スタートしたばかりだ。その先には、37歳で迎えることになるリオデジャネイロ五輪も浮上してくるかもしれない。名古屋で真のマラソンを走る意欲と、勝負への執念を見せてくれた五輪金メダリスト・野口みずき。彼女は今、日本女子マラソンに新たな歴史を描こうとして再び走り始めた。

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