スノーボード小栗大地の挑戦と成長。スタンス変更は「野球の右打者が左打者になるような感じ」 (2ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • photo by Paraspo/Kazuyuki Ogawa

【平昌後の挑戦】

 小栗は4年前の平昌大会後、2つの大きな"挑戦"を掲げた。ひとつは、より長く練習時間を確保するため、所属先に打診してアスリート雇用に切り替えること。そして、もうひとつはこれまでのレギュラースタンスからグーフィースタンスに変更することだ。右足大腿義足の小栗の場合は、うしろ足を健足側にすることでキッカーなどでより強く雪面を蹴り上げることができるという判断だ。

 小栗によれば、グーフィースタンスへの転向は「野球の右バッターが左バッターになるような感じ」だという。大会直前の取材では、「野球でもスイッチヒッターがいるように、できないことはないという感じです。ただ、僕はプロの時もパラスノーボードを始めたあとも、20年以上ずっとレギュラーで滑ってきたので、その違和感がなくなるのに3年かかりました。さらに言えば、本当にレギュラーと同じような感覚で滑れるようになったのは、今季に入ってからです」と話していた。

 そして、「こんなに時間がかかるとは、正直思わなかった」とも。レギュラースタンスのうしろ足が義足の時と、グーフィースタンスの前足が義足の時では、セッティングが異なる。

 さらに当時は大腿義足でレースに出る国内選手はほとんどいなかったため情報がなく、手探りでベストを見つけなければならなかった。W杯などで海外遠征に行った際に同じ大腿義足の海外選手に尋ねることはあったが、すべて手の内を明かしてくれるわけではない。彼らの映像を分析し、試し、地道にデータを積み上げ調整していくしかなかったが、あきらめることはなかった。「常に上達している感覚を得られていたから」と話すように、明日につながる成長の実感が挑戦をあと押ししていた。

 義足を使いこなす目的で、春から夏にかけてはスケートボードの練習にも取り組んだ。同じ"横乗り系"で、義足のセッティングや板のコントロール、乗る位置なども似ている。ミニランプはスノーボードクロスのスタートセクションのようにアール状になっており、反復練習して身体に感覚を覚えさせた。

 同時に人工芝のジャンプ練習施設に通い、バランス感覚を磨いた。滑りのスピードにつなげるため、体重はこの4年間で6キロ増量。うまくなりたい、速く滑りたい。そのためにできるすべてのことにトライし、そして北京に間に合わせた。

「スタンスを変えてスノーボード自体もうまくなりました。たぶん今レギュラーに戻しても、平昌の時よりも速く滑れると思う。スノーボードの滑り方、義足の使い方やセッティングも、グーフィーにしてすごく学ぶことができた。4年前とは比にならないくらい、成長できたと思います」

 北京でのすべてのレースを終えた小栗は、そう語る。

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