国枝慎吾、全豪OP優勝の一打は「ゾーンに入った」。テニスを辞めようとさえ考えた孤高の王者に何が起きたか (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【唯一取れていないタイトル】

 自分でも勝利の理由を見つけられぬ複雑な胸中を隠しもせず、彼は淡々と言葉を続けた。

「でも、試合になると、負けたくない気持ちは沸いてくる。そこじゃないかな......よりよいプレーを見せるんだという、テニスを始めた時の原点にいかに立ち返るか。それしかないのでは」

 手にしていないタイトルということで言えば、まだウインブルドンのシングルスが残っている。あるいはヒューエットのようなライバルや、15歳にして世界9位につける小田凱人(ときと)ら若手の台頭も、国枝の自己研鑽をうながす砥石になるのかもしれない。

「どの選手よりクリーンにショットを打つ選手ではあるので、マネできるところはマネしたいし、追いつきたいと思ってやっている」

 これは、ヒューエットへの評価。

 前哨戦で対戦し、熱戦を演じた小田に対しては、次のように語っている。

「日本の車いすテニス界にとって、本当に明るい材料。僕もそんなに長くやらないと思うので、いつでもバトンタッチできるという思いがあります。全部のショットが一級品。いつトップに来てもおかしくない状態だと思います」

 ちなみにサッカー少年だった小田は、骨肉腫を患いリハビリに打ち込んでいた時、国枝のプレーをテレビで見て車いすテニスを志したという。

 もっとも、国枝自身は「誰かが出てきたところで、自分自身のモチベーションを上げられるというのはない」という。

 ならば、何をモチベーションに、どこを目指すのだろうか? 自らに問いかけるように、彼はやや視線を落としていった。

「自分自身、どういうテニスをするのか。どう成長するかしかないことは、わかっているので......」

 その言葉の先に続く未来を、孤高の王者はここから模索していくのだろう。

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