東京パラリンピックで金、全米OPで優勝。国枝慎吾が振り返る1カ月。メダルの実感は「飛行機の中ですね」 (2ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu

―― 帰国後、パラリンピックの金メダルを久々に手にしてどんな気持ちでしたか?

「全米には持っていかなかったので、アメリカに発つ前の2日間は僕の手元にありましたけど、実は首にかける機会があまりなかったんです。自宅に帰ってきてかけてみました(笑)。久しぶりに、しみじみと見ました。結構、重いんですよね」

―― 東京パラリンピックのあと、どのタイミングで金メダル獲得を実感されましたか?

「うーん、全米に向かう飛行機の中......ですかね。ちょっとだけ落ち着けたので。試合の映像が入ったUSBが選手に配られるので、決勝戦を観たりして、そこでちょっと浸っていました」

―― 東京パラリンピックの決勝戦後の囲み取材で、「実は試合の記憶がありません」と話していましたが、その映像を観てよみがえったりしましたか?

「やっぱり決まった瞬間の記憶はないですね。そのあとにコーチやトレーナーの顔を見た瞬間は覚えているんですけど、相手のショットがどうなって終わったかっていうのは、映像を見ても思い出せなかったです」

―― 東京パラリンピックのトーナメントを振り返って、国枝選手にとって印象深い試合は?

「やっぱり準々決勝の(ステファン・)ウデ選手との試合が1番のキーポイントだと思いますね。第1セットを2-5とリードされてから逆転した場面。実は初戦の2回戦、3回戦は簡単に勝ててはいたけれど、気持ちの入れ方や戦い方に確信が持てなかったんです。パラリンピック独特の焦りとか不安とかがあって、それに順応していなかった。準々決勝から一気にレベルが高くなって、ウデ選手も相当調子がよくて、それで2-5になった瞬間に自分の現状に気づかされたというか、受け入れたんです。そこから大会に臨む姿勢やプレーをどうすればいいかという答えを導き出していった、という一戦でしたね」

――その結果、次戦の準決勝ではリオ大会金メダリストの難敵、ゴードン・リード選手に勝利しました。

「彼との試合も0-2というスタートだったんですけど、ウデ選手との2-5からの場面と同じような心境でやってたんですよね。なので、あんまり不安はなかったです。このままいけば必ずこっちに流れが来るというテニスができていましたから。なんかこういうのって、結構グランドスラムの決勝とかでよくあるパターンなんですよ。相手の調子がよくて、(自分が)追い込まれてからの逆転で優勝、みたいな。今回のパラは他の選手も雰囲気にのまれているなと感じているなかで、僕はウデ選手に追い込まれたからこそ戦い方を見出せたし、それ以降の戦いがすごく楽になりましたね」

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