FC岐阜の元社長が思うパラリンピックのあり方「国枝慎吾選手は国民栄誉賞に値すると思う」

  • 恩田聖敬●文 text by Onda Satoshi
  • 写真:恩田氏提供

 バスケットボールでは、オリンピックの女子に続き銀メダルを獲得し、パラリンピックでも歴史を変えることができた。バドミントンのパラリンピック勢は、メダル9個という圧巻の結果を残した。水泳もすごかった。陸上は、短距離でも世界と堂々と渡り合っている。そして、オリンピックでは近年苦戦しているマラソンで道下美里選手が金メダルを獲った。

 トライアスロンでも日本勢(宇田秀生選手=銀、米岡聡選手=銅)がメダルを獲得した。車椅子ラグビー、女子ゴールボールの3位決定戦も非常に見応えがあった。シッティングバレーも今回初めて観ることができた。

 どんな境遇に置かれてもそれに合わせたルールを考える人類というものは、スポーツから離れられない。

 2007年、テニス界のレジェンドのフェデラーに日本の記者が質問した。「なぜ日本には世界的プレーヤーが現れないのか?」。当時、錦織圭選手も台頭していない時代だ。しかし、フェデラーは即座にこう答えた。「何を言ってるんだ君は! 日本には国枝(慎吾)がいるじゃないか!」。一流は一流を知るというのはまさにこのことだ。

 国枝選手は今回日本選手団の主将を務め、車椅子テニスシングルスでパラリンピック3度目の金メダルを獲得した。錦織選手もフェデラーもジョコビッチも車椅子で戦ったら間違いなく国枝選手に一蹴されるだろう。パラリンピックは選手が残された体の機能を極限まで使いこなす戦いだ。

 私でもランプ(発射台)を使えばボッチャができるかも知れない。機会があればぜひチャレンジしてみたい。

 国枝選手の快挙は間違いなく国民栄誉賞に値すると思う。しかし、それはより多くの国民がオリンピック=パラリンピックの価値であると思っているならばだ。高橋尚子さん、吉田沙保里さん級のことを彼は成し遂げた。パラリンピックはオリンピックのおまけでも付録でもない。今回それが本気でわかった。

 オリンピックとパラリンピックを同等に扱うこと。それこそがオリンピック憲章の教えだ。マスコミもそこから始めるべきだ。両者ともに人間の可能性は無限であることを教えてくれるのだから...。

追伸
ボッチャ本当にやりたい。
やれるとこ岐阜でないですか?

恩田聖敬


【Profile】
恩田聖敬(おんだ・さとし)
1978年生まれ。岐阜県出身。京都大学大学院航空宇宙工学専攻修了。新卒入社した上場企業で、現場叩き上げで5年で取締役に就任。その経験を経て、Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。現場主義を掲げ、チーム再建に尽力。就任と同時期にALS(筋萎縮性側策硬化症)を発症。2015年末、病状の進行により職務遂行困難となり、やむなく社長を辞任。翌年、『ALSでも自分らしく生きる』をモットーに、ブログを開設して、クラウドファンディングで創業資金を募り、(株)まんまる笑店を設立。講演、研修、執筆等を全国で行なう。著書に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』。2018年8月に、気管切開をして人工呼吸器ユーザーとなる。私生活では2児の父。

※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて、力がなくなっていく病気。 最終的には自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけないと死に至る。 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受け、脳からの命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉が痩せていく。その一方で、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通。発症は10万人に1人か2人と言われており、現代の医学でも原因は究明できず、効果的な治療法は確立されていない。日本には現在約9000人の患者がいると言われている。

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