車いすテニス・国枝慎吾が涙の金メダル。自信をよみがえらせた試合とレジェンドからの言葉 (2ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu

 国枝の冷静なプレーが試合を支配し、会場の雰囲気が少しずつ変わっていく。パラリンピックの決勝戦という特別な舞台でも「やるべきこと」に徹する姿に、王者の風格が漂っていた。

 国枝の凄みを目の当たりにしたエフべリンクは試合後、「第2セットからは、もう楽しんじゃえ! という感じだったよ。シンゴはこんなプレッシャーのなかで自分のプレーができる。彼は金メダルをもらうべき人だね」と称えた。

 国枝はリオ大会で心身ともに挫折を味わった。長期休養を余儀なくされ、復帰したのは翌年の4月。肘に負担がかからない打ち方を模索し、とくに大きな原因となっていたバックハンドの改良に注力した。グリップの握り方も、ラケットも、車いすも変えた。2018年の全豪オープンで3年ぶりに優勝したあと、「新しい角度からテニスを見たい」と同年4月から現在の岩見亮コーチとタッグを組み、新境地を開拓してきた。

 2020年の全豪オープンも2年ぶりに制し、東京パラリンピックへ勢いをつけた。しかし、新型コロナウイルスの影響でツアーは中断し、大会は延期が決まった。他のスポーツに先駆けテニスはツアーを再開。国枝も大会を転戦するが、思うように勝ち進めない日々が続いた。心とラケットに刻む言葉『オレは最強だ!』を何度言い聞かせても、「心の奥に自分を疑う気持ちが出ていた」と振り返る。

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