2021.08.08

10m先の5円玉の穴の真ん中を撃ち抜く感じ。パラ射撃水田光夏「試合でドキドキしたことがない」

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 射撃には、技術に加え、集中力、メンタルの強さも求められる。

「集中力については、特にそれを高めるための練習とかはしていません。射撃を撃つリズムがあるので、そのリズムで繰り返し撃つことで自然に身についたものがあると思います。60分間、集中し続けるのは無理なので、弾を入れてサイトをのぞいて撃ち終わるまでを集中するようにしています」

 射撃は、1発を撃つごとに目の前のモニターにどこに当たったのか、何点なのか、合計点数が表示される。外れれば、巻き返さないといけないと思い、焦る気持ちも出てくるだろう。

「以前は目標の点数にいくまであと何点だから、1発平均で何点取らないといけないとか考えたんですが、それを考えて撃ってもいいことがなかったんです(苦笑)。今は、1発1発に集中しています」

 水田の言葉からは気持ちの強さが伝わってくる。メンタルは射撃で高得点を叩き出すには必要な要素だが、自分ではどう分析しているのだろうか。

「試合でドキドキするとか、緊張したことがないんです(笑)。試合の時も普段の練習の時と同じように撃てるのが、自分の強さでもあると思っています」

 世界で戦うため、メンタルや集中力は十分に足りている。あとは、試合までにどのくらい調子を上げていくのか。

 幸いなことに、東京パラリンピック前の大会で水田は、638.3点という高得点で自己ベストを更新した。この記録はリオ五輪でいうと、本選1位のスコア(636.7点)を越えている。いい流れができており、東京パラリンピックでの期待がますます膨らむ。

 その東京パラリンピック、パラ射撃を通して、見ている人に、どんなメッセージを届けたいと考えているのだろうか。

「まず、パラ射撃という存在を知ってもらいたいですね。私は手と足に障害があり、体も動かない部分が多いんですけど、それでもできる競技があるんだよっていうのをみなさんに知っていただけたらと思います」

 これまで支えてくれた母への想いもある。

「競技を始めた時から練習の送り迎え、銃以外の必要な道具を運んでもらったり、テーブルの組み立てや私が射座に入る時のサポートなど、練習も試合もずっとついてサポートをしてくれているので、本当に感謝しかないです」

 マイペースの水田と異なり、母は「10.6点以下は外れ。外さないで!」など熱心なタイプで異なる性格なのも相性がいいのだろう。もっとも練習と試合はいつも一緒なので、家にいる時は「離れてそれぞれの時間を過ごしている」という。

 母やコーチ、そして昨年就職した会社のサポートを受けて、いよいよパラリンピックの舞台に立つ。

 目標は、どこに置いているのだろうか。

「今の自分の最大のパフォーマンスを発揮して、自己ベストを更新することです。パラリンピック前に自己ベストを出したので、次すぐに出せるかどうかわからないですが、その点数が出ればファイナルには出られるのかなと思います」

 試合では横一線に選手が並び、黙々と弾を撃つ。そんな中でも自分という存在感を出して、試合を楽しむのが水田のスタイル。東京パラリンピックでの試合当日、ピンクが好きな水田は自己主張できる部分は自分らしさを出して臨むという。

「大きな試合だからといって何かを変えるのではなく、普段通りのメイクとか、おしゃれを楽しんで自分の好きなもので周囲を埋めてテンションを上げています。今回はパラ五輪なので制限がありますが、ネイルのデザインとヘアスタイルは担当の人と話をして、すでに決まっています(笑)。しっかり準備して臨みたいと思っています」

 普段の練習はイヤホンで好きなK-POPを聴きながらノリノリの気分で撃っている。

 9月1日、決戦の日、試合中に音楽は聴けないが頭の中では大好きなBTSの「Dynamite」をガンガンに響かせながら自己ベスト更新とメダルを狙う。

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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