東京パラ主将・国枝慎吾の悩み。世界ランク1位の肩書きが「邪魔している」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 国枝の場合、現在のランキングを支えるポイントの大半が、昨年3月のツアー中断期より以前に獲得したものである。その現実が「1位」という地位を、どこか居心地の悪いものにさせているようだ。

 34歳のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が君臨する男子テニス界では、コロナ禍による中断期に若手がフィジカルと技を磨き、ツアー再開後は勢力図が変化しつつある現状がある。

 それと同じ現象は、車いすテニス界でも起きていると言えるだろう。現在、世界2位で23歳のアルフィ・ヒューイット(イギリス)は自信を持つバックハンドを一層強化し、先月の全仏オープン決勝では国枝を力でねじ伏せた。

 今回のウインブルドンで国枝が敗れた29歳のゴードン・リード(イギリス)も、ここ数年の低迷から脱却。かつて座した世界1位に戻るべく、モチベーションを高めている。

 昨年9月のツアー再開後、車いすテニスもヨーロッパが主戦場になっているため、日本に住む国枝に地理的なハンデがあるのは否めない。今回のウインブルドンにしても、欧州の選手たちは芝の前哨戦に出ているのに対し、国枝は直前の現地入りでの"ぶっつけ本番"だ。

 その差異については、「ヨーロッパの選手と比べると、試合数的に足りてないのは頭でわかっている」と国枝は認める。だが同時に、「あまり、試合勘という言葉だけで片付けたくない」とも言った。

 それは、直近のグランドスラム3大会で優勝を逃している真の理由は、自分の内にあると感じているからだろう。

「挑戦者モードに、どこかで持っていかないといけない。どこかで守っている、置きにいっているというか......グワッと相手を叩き潰すんだという気持ちが、最初から最後まで持続しない。そういうモードに自分を持っていかないといけないというのが、ここ数試合で感じていることです」

 挑戦者に身を置くべきという思いと、それを拒む、世界1位という数字。その狭間に足を取られたのが、今回の敗戦だろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る