東京パラ主将・国枝慎吾の悩み。世界ランク1位の肩書きが「邪魔している」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「フラットで攻めていこうと思ったんですが、どうしてもスピンをかけてしまいがちで......。技術的なことなのか、気持ちでチキっていたからなのか......」

 もどかしげに首を捻りながら、自分に問いかけるように彼は言った。

 逆転負けを喫した敗退から、さほど時間をかけずに向かった記者会見。まだ気持ちの整理もつかぬなかで、国枝慎吾はウインブルドン初戦敗退の現実と原因を、まだ処理しきれぬ様子だった。

選手団の主将として東京パラリンピックに臨む国枝慎吾選手団の主将として東京パラリンピックに臨む国枝慎吾この記事に関連する写真を見る ウインブルドンの芝のコートは、軽快なチェアさばきを武器とする国枝にとって、決して相性のいいフィールドではない。ただ同時に、今の国枝にとっては、ひとつの試金石となりえる大会でもあった。

 球足が速い芝のコートでは、回転を抑え、低い軌道でコートに刺さる"フラット"な打球が効果的だ。だからこそ国枝も、フラットショットでの速攻テニスを標榜していた。

 もちろん、直線的な打球はネットにかかるリスクが高い。カウンターで返されれば、反応する間もなくポイントを失う怖さもある。

 そのリスクと対価の天秤の針は、国枝のなかで揺れた。

「頭でわかっていても、身体で体現できないもどかしさはあります」とも明かす。

 そのうえで彼は、「ランキングが邪魔している感じがありますね」と、ひと息に吐き出した。

 国枝の現在の世界ランキングは「1位」である。

 ただ、彼のなかでは、最強の証左であるはずの数字と自分のパフォーマンスとの間に、埋めがたい乖離がある。

「1位にいるけれど、自分のテニスは、今年よくない。結果もそうですが、内容もよくないので、1位にいるのはポイントが凍結されているだけ」

 車いすテニスのランキングポイントは、基本的に獲得から52週で消滅する。そのため世界ランキングは、過去1年間の戦績に依拠するのが通常だ。

 ただ、現在に限ってはコロナ禍による半年のツアー中断期があったため、2019年3月以降のランキングポイントは凍結され、いまだ有効になっている。

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