作家が車いすテニス選手と対談して知ったリアル。書く前に聞きたかった!

  • 荒木美晴●構成・文 text by Araki Miharu

■選手と一心同体・エンジニアの存在

―― 作中ではサポートする人たち、とくに選手を支える車いすメーカーのエンジニアの存在が興味深かったです。阿部さんがエンジニア側にも焦点を当てた理由を聞かせてください。

阿部 先ほど言ったように、「競技ごとの車いすを作っている人がいるのか。すごいな」というところからスタートした作品で。最初は車いすを作る人だけを書く可能性もありました。でも、車いすテニスを正しく知ってもらうためには、車いすを作っている人、そして車いすテニスに励んでいる選手を両方書いて初めてちゃんとわかってもらえるのでは、という感触があって。それでこのような形の話になりました。

昨年、グランドスラム初出場の全米OPに続いて全仏OPにも出場した大谷桃子選手 photo by PRESSE SPORTS /AFLO昨年、グランドスラム初出場の全米OPに続いて全仏OPにも出場した大谷桃子選手 photo by PRESSE SPORTS /AFLO―― 大谷選手とエンジニアの方々の関係はどんな感じですか?

大谷 私はなんでも言わせてもらっています。それこそ自分が遠慮して、「車いすのここをこうしたい」という希望を言わず、それで結果が出なければもっと申し訳ないことになってしまうので......。とはいえ、1年目とかは担当の方のことも、自分の体のこともまだ理解していなくて、「どこまで言っていいのかな」というのがありました。ちゃんと言えるようになったのは2年くらい前かな。それまでは与えられたものに乗る、という感覚のほうが強かったかもしれないです。

阿部 車いすは体の一部だから、状態を伝えるのって難しいですよね。

大谷 難しいですね。車いすの構造をきちんと理解している選手は「ここを数ミリ長くしたほうがいいんじゃないか」って言えるんですが、私は今でもまだ「うまく回らないんだけど」とか「腰で押しているんだけど全然ついてこない」という感覚的な言い方になってしまいます。エンジニアさんはその感覚をくみ取って対応してくださるので、本当に有難いですね。作中でもそのあたりのやりとりが描写されていてリアルだなと思っていました。

阿部 私は執筆にあたって、車いすメーカー・オーエックスエンジニアリングさんの本社にお邪魔して、営業担当の安大輔さんに話を伺いました。「一番大事なことって何ですか」って聞いたら、「どこまで懐に入れるか、ですかね」っておっしゃっていました。それを私の頭のなかで独自解釈したセリフにして、作中でエンジニアの小田切にしゃべらせたりしましたね(笑)。

 あと、『パラ・スター』の<side宝良>で、試合中に車いすが故障して、スタッフが来て直すというシーンがあるんですが、取材したジャパンオープンでそれが本当に目の前で起こったんですよ。安さんがバッグを担いで走ってコートに入ってきた。あの緊迫の場面で、何がどうなっているかもわからない状態で、瞬時に車いすの状態を見て、どうにかして試合を再開させたというのがすごく印象的でした。

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