なんくるないさ。車いすマラソン・喜納翼、東京パラで羽ばたくための戦略 (3ページ目)

  • 星野恭子●文 text by Hoshino Kyoko
  • 吉村もと●写真 photo by Yoshimura Moto

 2018年にはレーサーをアルミ製から走行時の安定感が高いフルカーボン製に変えた。推進力が増し、「特に下りでの加速がいい」という。減速させずスピードに乗れれば、大きな武器になる。性能を生かす体の動きや漕ぎ方を工夫しながら、「もっとエンジン(となる自分)を鍛えたい」と向上心を絶やさない。

 きつい練習を耐え抜く原動力は、大好きなスポーツを思い切りできる喜びと、支えてくれる人たちに「よい結果で恩返ししたい」という感謝の思いだ。陸上は個人競技だが、家族や友人をはじめ、コーチやチームメイト、レーサーの開発担当者など、支え・応援してくれる「チーム感」にも魅せられ、力にしている。

 昨年3月の東京パラ延期にも揺らぐことはなかった。できる範囲で走り込みを重ねながら、よい機会だと例年以上に筋トレを増やし、ベースとなる体づくりに励んだという。今年3月には、陸上自衛隊立川駐屯地(東京・立川市)の滑走路を周回する特別レースに出場した。大きな起伏のないコースは下り坂での加速が得られないため車いすを常に漕ぎつづけなければならず、基礎体力が問われたが、喜納は「強い向かい風にもペースが落ちなくて、トレーニングの成果を実感しました」と手ごたえを口にした。

 東京パラ内定が決まった翌日、5月11日には本番会場である国立競技場でのテスト大会に出場。テスト大会のため、種目は専門外の100mだったが、マラソンの発着点となるトラックの感触や一般道への出入り口となるマラソンゲートなどを確認できたといい、笑みをこぼした。

「マラソンゲートを通った瞬間、パッと明るく、視界が広がる感じがしました」 

 陸上と出会い、目の前の課題と一つずつ真摯に向き合いながら、世界への扉も開いた。その視界はどれだけ広がり、その"翼"でどこまで飛んでいくのだろうか。

profile
喜納翼(きな・つばさ)
1990年5月18日沖縄県うるま市生まれ。タイヤランド沖縄所属。バスケットボールに夢中だった大学1年時、トレーニング中の事故で下肢完全まひとなり、2013年に車いす陸上を始める。障害クラスはT54。2019年世界選手権5位。マラソンベストタイムは2019年に出した1時間35分50秒。

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