女王の意地、新人の台頭。日本が車いすテニス強豪国となる日は近い (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そう痛感した古賀は、伝手を通じて競技用チェアを譲ってもらい、自らも"チェアワーク"を習得しはじめる。そしてその際、古賀が助言を求めたのが、上地のコーチである千川理光(ちかわ・まさあき)だった。

「僕より歳下ですが、千川君が僕の師匠です」と明言することを、古賀はためらいはしない。チェアワークに伴う車いすならではの戦略性も、上地たちを手本としているという。

 だから上地との対戦は、いわば「選手とコーチ揃っての師弟対決」みたいなものだと、古賀は笑った。

「いつか日本人ファイナルの日が来たらいいな、と思っていたが、こんなに早いとは思わなかった」

 自身の決勝進出を決め、ひと足先にその舞台に進んでいた大谷との対戦が決まった時、上地はそう言った。後進の急成長を喜び、同時に「2度目のグランドスラムで、優勝させるわけにはいかない」と闘志を燃やす。

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 上地自身も、グランドスラムのシングルス優勝を果たすまでには5大会、足掛け2年を要した。

「そう簡単に勝たせはしない」との想いは、本人曰く「そこはやっぱり、意地」であり、第一人者としての使命感でもあっただろう。大谷の特性をしっかり分析し、やるべきことを明確にして、上地は日本人決戦のコートに向かっていた。

「お互いに......なんというか、仕事人タイプというか」

 自身と大谷の共通点を、上地は笑顔でそう語る。ミスの少ない大谷を「同じことをしっかりやってくる選手」と評し、「私も相手の嫌なところをついていくプレースタイル」と述懐。そのうえで戦前の上地は、「バックハンド同士の、ストレートのラリー」がカギになると分析していた。

 サウスポーの上地がストレートに打てば、右利きの大谷はバックで返すことになる。大谷をバックサイドのコーナーに釘付けにし、甘いボールがくればすかさず前に出て、オープンコートに強打を叩き込む。

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