車いすフェンサー藤田道宣は、
無意味と言われたことを武器にして勝つ

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by Yohei Osada/AFLO SPORT

 前後のフットワークがない車いすフェンシングは、固定された車いすの上で上半身だけを動かして戦う。腹筋や背筋が利かない選手は、剣と反対の手で車いすのフレームを握ってコントロールすることが重要になる。転向当初はわずかに握力が残る左手で剣を握っていたが、この上半身の動きを重視して、剣を利き手の右手に戻した。

 ただし、藤田は右手の握力がない。そこで、剣と手をテーピングで固定する工夫を凝らす。使用する剣についても藤田の戦略が光る。フェンシングは剣の長さが5段階に分かれており、一番長い5号剣を使用する選手がほとんどだが、藤田は相手によって剣の種類を使い分け、ジュニアの選手が使用する短い3号剣で挑むこともある。他の選手にとって短い剣を使用するメリットはないが、障害で手首にも力が入らない藤田にとって剣の軽さは武器となり、スピードがまったく違ってくるのだという。しかも、相手は経験したことのない距離感での試合展開に戸惑いを感じる。そこを突いていくのだ。

「3号剣を使ったとき、周りからは『意味がないからやめろ』って言われました。でも、いかに自分が有利に戦えるか、それを追求するために僕はなんでも試してみたいんです」

 藤田の言葉に迷いはない。

 東京パラリンピックが1年延期になったことは、「トレーニングができる時間が増えたとプラスに捉えている」と話す藤田。同時に、競技普及への想いもつのる。「パラスポーツのなかでも車いすフェンシングは認知度が低いんです。東京パラリンピックが終わったあともブームを継続するには、この延期された1年間にどんな取り組みをするかが重要になると考えています。僕も車いすフェンシング界の発展につながる活動をしていきたいと思っています」

 自分の信念を貫いた先に、たどり着く場所がある。車いすフェンサー・藤田道宣は、険しくも楽しい道をしっかりと見据え、挑戦を続けていく。

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