車いすラグビーで世界一になるため、池透暢は主将の役割を「捨てた」 (3ページ目)

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by AAP Image/AFLO

 ゲーム中、いわゆるゾーンに入っていた池。相手が何を考えているか、次にどう動いてくるかが手に取るようにわかり、ついには手立てがなくなり戦略が底をついたことも透けて見えていたという。

 一方のアメリカにとってこの敗戦のショックは大きく、泣き崩れる選手もいたほど。エースのチャック・アオキは、今でも「あの試合で日本にボロボロにされた」と語っている。

 そして、日本チーム全員の力が優勝につながった。決勝ではオーストラリア代表の背中を押す地元の観客の大声援に、たびたび押し込められそうになったが、日本は気持ちをひとつにして戦い、接戦を制して62-61で見事に勝利。池は、勝因についてこう語る。

「オーストラリアと競り合っても、アメリカ戦でひとつの領域を超えた自分たちを知っているから最後まで突っ走れた。そういう、初めての世界一だったと思います」

 金メダルを目指す東京パラリンピックは1年延期になったが、池は「日本チームにとってはメリットのほうが大きい」と話す。「故障していた選手もコンディションが優れない選手も、ここで一度リセットできました。ポジティブな材料を探してみると、案外たくさんあるなと思ったんです。それを活かして、もう一度チーム作りをしていきたい。実はすでに再び足並みがそろい始める兆しが見えているので、すごく楽しみなんです。新しいジャパンになるんじゃないかな」

 前進することにトライし続けてきた池の言葉だからこそ、重みを感じる。これからリスタートを切る"新生ジャパン"を牽引する池の活躍に心から期待したい。

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