上地結衣が「信じられない」と喜びの涙。全仏OP初制覇で観客を魅了した (3ページ目)

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by Getty Images

 その一歩を踏み出すことを決めた上地は、練習環境を整え、主戦場を世界へと移した。前述の全仏オープンで優勝したのは、グランドスラムに参戦して3シーズン目。強敵にもまれ、加速度的に進化を遂げるなかでの出来事だった。

 ただ、自身が成長するにつれて、車いすテニスの奥深さも同時に感じていた時期だ。「優勝はとてもうれしい。でも、これはリオパラリンピックへの過程にある、ひとつの試合」と自身の立ち位置を冷静に見定め、千川理光(ちかわ・まさあき)コーチもまた「"本当の世界一"に見合うように、これからしっかりと練習に取り組まないと」と語っていたことが印象に残る。

 この時、車いすテニス界は男子も女子も競技力が大きく向上し、とくにトップクラスは誰が勝ってもおかしくない稀にみる混戦模様だった。全仏を振り返り、2人は「頂点に立っても、結果は対戦相手の調子による面も大きく、強化してきたことを毎回本番で出すことは簡単ではないことを痛感していた」と、語っている。2人が目指す"本当の世界一"の姿は、まだ先にあるのだ、と。

 だからこそ覚悟を決め、そこからブレずに邁進し続けることができた。最高峰のパラリンピックという目標に向けて、サーブの改良や競技用車いすの改造にも積極的に取り組み、体格の勝る海外勢に対抗するため、バックハンドトップスピンの習得にも挑戦した。低い弾道で相手コートの前方にボールが落ちる有効なショットだが、ボールを打つ際に身体のひねりや強い筋力が必要になるため、当時は女子でマスターする選手はほぼいなかった。

 ハードな体幹トレーニングを重ねていった上地は、精神面でも大きく成長し、2016年リオパラリンピックで銅メダルを獲得。そして、現在の活躍につながっている。

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