上地結衣は攻撃テニスを貫く。
元女王vs現女王、新たな物語の始まり

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 今年1月――。

 南半球のメルボルンで行なわれた全豪オープン決勝戦で、彼女は「こんなにボコボコにやられたのは久しぶり」と、苦笑いをこぼす敗戦を喫した。

 スコアは、0-6、2-6。対戦相手は、22歳のディード・デグルート(オランダ)。

 上地結衣のライバルにして、女子車いすテニス界の頂点に君臨する、現在の女王である。

全米オープン決勝で再び女王デグルートと対戦した上地結衣全米オープン決勝で再び女王デグルートと対戦した上地結衣 全豪でのこの一戦は、それまでふたりが重ねてきた23度の対戦のなかでも、最も一方的な展開になった試合のひとつだった。

 ただ、その敗戦のなかにも、上地が「唯一、よかった」と手応えを掴んだプレーがある。それが、第2セットで決めたボレー。

「前に出る展開に、今年は取り組んでいきたい」

 ライバルを倒すために進むべき道を、そのボレーは指し示していた。

 それから、8カ月後――。

 ふたりは戦いの場をニューヨークに移し、またも四大大会の頂点をかけて相対する。両者の対戦は、今季だけでも7度目。戦績は5勝2敗で、デグルートが優勢に立っていた。

 過去の上地とデグルートの対戦は、デグルートが仕掛け、それに対抗する術(すべ)を上地が見出す構図だったと言えるだろう。だが、この試合は違った。

 全豪オープン決勝で決めたあのボレーを指針とした彼女は、コートの中に入り速いタイミングでボールを叩く、攻撃テニスを携えてライバルに立ち向かう。相手の戸惑いも察した上地は、早々にブレークを奪取。その後も主導権を握りしめ、第1セットを掴み取った。

 だが、第2セットに入ると同時に、試合の様相は変わる。第1セットでは決まった上地のショットが拾われる。逆にデグルートは、ボールを打つごとにラリーを支配し、最後は上地が一歩も動けぬウイナーを決めはじめた。

 この時に上地は、劣勢に立たされた理由を、「打つタイミングが遅いのか、ポジションがいけないのか、あるいはショットの質が悪いのか......」と、自分のプレーに求めた。

 そうではない――。

 相手が意図的に展開やショットスピードを緩め、リズムを変えたのだと気づいたのは、第2セットの終盤にコーチの言葉を聞いた時だったという。

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