パラカヌー瀬立モニカが世界で躍進
「今、成長スピードは自分が世界一」

  • 斎藤寿子●取材・文 text by Saito Hisako
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 そして24日、運命の決勝の日を迎えた。前日の夜は目を閉じると、胸の鼓動が聞こえ、なかなか眠ることができなかったという瀬立。スタート地点に現れた彼女の顔は少しこわばっていた。それまでの予選、準決勝とはまるで違う、大きなプレッシャーにのみこまれまいと戦っていたのだろう。それでもルーティンである2度息を吐き、大きく深呼吸した瀬立は覚悟を決め、いつものように集中力を高めて、リズムに乗った。

 追い風だった予選、準決勝とは違い、決勝は向かい風だった。だが、そうなるであろうと情報を入手していた瀬立には何の問題もなかった。そして隣のレーンでは、リオ金メダリストのジャネット・チッピントン(イギリス)がピタリとついてきていたが、自分のことに集中していた瀬立の視界にはまったく入ってはこなかった。

 後半は「少し固くなってしまった」と言うが、それでも予選、準決勝で課題としてきた最後の20mで、猛追するジャネットに競り勝ち、フィニッシュ。日本パラカヌーにおいて過去最高位の5位という快挙を成し遂げ、東京パラリンピックへの切符をつかみ取った。

「ようや口にしてきたことが現実になって、本当にうれしいです」

 この言葉に、瀬立が味わってきた過去の悔しさがにじみ出ていた。

 パラカヌーがパラリンピックの正式種目となったのは、3年前のリオ大会から。唯一の日本代表として出場した瀬立は、決勝に進出して8位入賞という成績を残した。だが、彼女に喜びはなかった。トップとの差は10秒以上、さらに7位の選手とも5秒以上離され、決勝では一人取り残された状態での最下位だったからだ。

「8位入賞と言われると、悔しくてたまらないんです」

 リオ直後、瀬立はそう語っていた。

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