パラ・パワーリフティングで新記録が続々。競技環境の変化が実を結ぶ (3ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文・写真 text&photo by Araki Miharu

 目標達成のため綿密に練られた練習メニューは、場合によっては、「量より質」の観点から練習量を減らすケースも。エイモス氏が指導を始めた2年前、男子97kg級の馬島誠(日本オラクル)は、「これまで毎日ジムに通っていたので、身体的には十分こなせるメニューだが、逆に気持ちの部分で鍛えられると感じる」と話していた。その後、馬島は一時期の停滞期を乗り越え、実力が一気に開花。2月の全日本選手権では、160kgの自己ベストをマークし、世界選手権の標準記録もクリアしている。

 同じく当初からエイモス氏の指導を受ける西崎は、これまで3回ある試技のうち、第1試技を失敗し、挽回していくパターンが多かった。だが「チャレンジカップ京都」では、すべての試技に成功し、さらには特別試技で日本新記録を樹立した。「ジョンがセコンドについてくれたことで、集中して試技に臨めた」と要因を語る。

 また、中辻も2月の全日本で長年の課題だった「200kgの壁」をついに破り、さらに今大会、その記録を更新した。中辻の場合は、エイモス氏が試技の重量を決め、本人はその重量をあえて耳に入れず、ベンチ台に乗るスタイルだと言い、「彼は選手のことを本当によくわかっている。自分は目の前の重さを挙げるだけ」と全幅の信頼を寄せている。

 女子41kg級の成毛美和(APRESIA Systems)は、全日本後にエイモス氏のメニューに取り組み始め、今大会は日本記録を更新するとともに、世界選手権の派遣標準記録を突破した。「まだこれからだけれど、自分の力が楽しみ」と笑顔を見せていた。

 今年4月、エイモス氏はJPPF(日本パラ・パワーリフティング連盟)のヘッドコーチに正式に就任した。JPPFが重要と認めた国際大会に同行して采配を担当することになる。パワーリフティングは個人競技だが、実はチームスポーツであると言われ、コーチや仲間の存在があってこそ、初めて試合に臨めるからだ。まさに、"ひとつのチーム"として強くなろうとしている日本。パラリンピックへの一歩となる世界選手権で、どんなパフォーマンスを見せてくれるか、楽しみだ。

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