プロ車いすバスケ選手は日本で1人。ドイツの強豪チームで孤軍奮闘中 (3ページ目)

  • 斎藤寿子●取材・文・写真 text&photo by Saito Hisako

 しかし、今シーズンはこれまでに経験したことがないほどの厳しいスタート。アジアパラ競技大会に出場するため、昨シーズン同様に1カ月遅れでの合流を余儀なくされた。すると、待ち受けていたのは1年前とは違う状況だった。新ヘッドコーチ(HC)のもと、チームは順調に白星を積み重ねており、主力であるメンバーが固まりつつあったのだ。合流して最初の3試合、香西は試合にこそ出場したものの、その起用のされ方は"主力"とはかけ離れたものだった。

 それでも香西が"腐る"ことはなかった。逆に彼はこの状況をなんとかプラスに捉えようとしていた。そして練習でも試合でも、黙々とやるべきことをやることに専念した。

 そんな中、香西の存在価値を示す大きなきっかけとなったのが11月24日、最大のライバルであるRSBテューリンギア・ブルズ戦だった。現在、リーグは前シーズンに続いて"2強"の様相を呈しており、3位以下を大きく引き離した中で、テューリンギアとランディルとのトップ争いが繰り広げられている。11月24日は、その全勝同士の戦いとあって、両チームにとって大事な一戦だった。

 前半にリードしたのはテューリンギア。内容的には、両チームにそれほど差はなく、テューリンギアを勢いに乗せていたわけではなかった。しかし、スコアは少しずつ開き、2Q(クォーター)を終えた時点でテューリンギアのリードは2ケタとなっていた。

 ランディルの指揮官はなんとか流れを引き寄せようと、何度か選手を交代させ、いくつかのラインナップを投入。しかし、香西には一度も声がかからなかった。前シーズンの活躍からすれば、「香西宏昭」というカードを切ることも十分に考えられたが、彼がコートに立つことは一度もないまま、前半が終了した。

 そして3Qのスタートも、香西はベンチを温めていた。

「もう自分はチーム構想から外れているのだろうか......。今日は出番がないかもしれない」

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