退路を断って成長。パラテコンドー・伊藤力が東京パラ初代王者を狙う (3ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • photo by Murakami Shogo

 強化合宿に参加した3カ月後の2016年4月のアジアパラテコンドーオープン選手権大会に、日本代表としていきなり出場することになった伊藤。初戦の相手は、当時世界ランク1位の選手。結果は自身も覚悟していた通り完敗だったが、大会後、彼の頭のなかには、こんな思いがよぎっていたという。

「始めたばかりの自分と、一番上の選手の実力差はどれくらいなのか確認しようと思って臨んでいました。もちろんボロボロにやられましたけど、4年間しっかり取り組めば、追いつけない距離ではないぞって感じたんです。ただ、稽古しなければ成長できない。だから、家族で東京に移住することに決めました」

 退路を断つ大きな決断を下し、前途の通り、国際大会でも結果を残すようになった。その活躍に後押しされるように、新たにパラテコンドーを始める選手も少しずつ増えてきた。他の選手と同じ道場で稽古をするわけではないが、互いに刺激しあい、切磋琢磨できる環境は、アスリートにとって不可欠だ。

 伊藤は「競技自体の面白さはもちろんのこと、"パイオニア"と呼ばれるようになって、日本に競技環境を作っていくことも前向きに捉えてやっていました。白紙に絵を描いていくような日々でしたから、競技者が増えるたびに喜びを感じていますね」と率直な想いを明かす。

 パラテコンドーは2005年にWTF世界テコンドー連盟にパラテコンドー委員会が設置され、2009年に初めて世界パラテコンドー選手権が実施された新しいパラスポーツだ。東京パラリンピックでの正式採用決定を契機に、徐々に世界でも普及している。ヨーロッパでは、国が支援するなか、パラテコンドー選手として生活している選手も少なくない。伊藤のクラスでは、モンゴルやロシア、トルコなどの選手がランキング上位につけているが、近年は10代の選手が台頭しつつあり、世界の勢力図も刻々と変化しているという。

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