パラトライアスロン秦由加子。「大腿義足で5kmを走る」ことの凄さ (3ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • photo by MATSUO.K/AFLO SPORT

 まず、ラン用の義足から膝継手(ひざつぎて)というパーツを失くした。人間の膝の代わりをする重要なパーツだが、正しい角度で脚を接地しないと、膝がカクンと折れる「膝折れ」を起こすリスクがあり、転倒してケガにもつながりかねない。膝継手のない義足なら膝折れの恐怖感がなく、脚を思い切り振り出せるメリットがある。トライアスロンのコースは坂道や凸凹のある路面も多いため、海外では早くから取り入れている選手もいた。

 ただし、長年、秦の義足の制作や調整を行ない、アスリートとしての成長を見守ってきた義肢装具士の臼井二美男氏によれば、膝継手を使わずに走るのは膝継手の使用時よりもエネルギー消費量が多く疲れやすいため、使いこなすための体力や筋力が必要だという。

 実際、数年前に膝折れの不安解消にと提案したときは、秦はまだ使いこなせず、すぐに疲れてしまったという。だが、ここ数年のトレーニングで身体が強化され、ようやく導入できるようになったのだ。

「大腿義足で5kmを完走できる女子は、日本では秦さんしかいない。すごいことです」

 数多くの義足選手をサポートしてきた臼井氏も、秦の進化に太鼓判を押す。

 また、タイヤメーカー、ブリヂストン社の支援を受け、耐久性とグリップ性を両立させた義足用ソールも完成し、大きく一歩を踏み出したときに義足の先が滑ってしまう不安も解消された。こうした義足のさまざまな改良もあり、ランのタイムは上がっている。

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