ノルディックスキー新田佳浩。8年ぶりパラ金メダルまでの過酷な日々 (3ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • photo by Sho Tamura/AFLO SPORT

 一時は引退も考えたが、「負けたままでは終われない」と現役を続行。ソチ後に所属先のコーチに就任した長濱一年コーチとともに練習内容を見直し、30代に入ってからの肉体改造にも着手した。長濱コーチによれば、「年間260日」という日々を二人三脚で過ごし、「雨のなか、泥だらけになったり、厳しいことも言ったが、よく耐えてくれた」と振り返る。

 スポーツ庁発足以来、パラアスリートにも門戸が開かれるようになった国立スポーツ科学センター(JISS)でのトレーニングも効果的だった。綿密な身体測定データに基づき、自身の障がいに応じたパーソナルなメニューで弱点を集中的に強化した。心肺機能を高めるための低酸素室トレーニングは、「練習日の朝は、逃げ出したくなるほど憂鬱」と弱音をこぼすほど過酷だったが、ここぞというときのスパート力が増した。

 また、新田のレースは最初から果敢に飛び出して粘るスタイルが持ち味だったが、ここ数年、終盤の競り合いで失速して敗れるレースが増えていると分析した長濱コーチは、突っ走るだけでなく、相手選手の展開も見ながら走る、「ベテランらしい大人のレースをしよう」と策を授けた。

 そこで昨年夏からは、疲労したなかで競り負けないために、「どんな練習でも最後の5分間は追い込んで終える」という練習を繰り返させたという。この練習が「後半の伸び」につながり、さらに、「レース後半にラップを上げるペース配分」という戦略もピタリとはまり、今回のレースでの終盤の逆転劇が生まれた。

 ともに苦しみ悩む日々を過ごした長濱コーチはレース後、「新田にはふだん、厳しいことばかり言ってきたが、今日だけは褒めたいと思う」と、愛弟子の快挙に目を細めた。

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