走ることは、生きること。車いす陸上の超人・永尾嘉章「53歳の挑戦」 (3ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 吉村もと/MAスポーツ●写真 photo by Yoshimura Moto/MA SPORTS

 新しいことに取り組めば、何かを失う可能性もある。しかし変化を恐れては、成長はない。その信条に従い、昨年はレーサーのハンドリム(※)の直径を1センチ小さくし、漕ぎ出しのスピードを落とさずにトップギアにつなげる走りを追求。結果、その年の日本選手権で3冠を達成した。さらに、現在はスタート時にこれまでよりも上半身を少し持ち上げ、蓄えたパワーを車椅子にダイレクトに伝える独自のスタートダッシュを模索しており、手ごたえを感じているところだ。
※陸上競技用車いすのタイヤに付いている漕ぎ手の部分

 今のところ、一番の敵は疲労とケガだ。「リオまでの4カ月は、ケガをしないギリギリのところでトレーニングするつもり」と話せるのは、約30年間にわたって自ら道を切り開いてきた永尾だからこそだ。

 とはいえ、世界のトップクラスで勝負するには、まだ力の差があると実感している。昨年10月の世界選手権では200mで8位に入賞したものの、100mと400mでは準決勝敗退に終わり、苦杯をなめた。その一方で、成長と課題が明確になり、100mでは後半の伸びで負けなかった。前半をさらに鍛えることで、日本人初となる13秒台を出せば、リオでのメダルも視界に入る。400mでは第3コーナーで出た最高速度をいかに最後まで持続できるかが、決勝進出のカギになる。

「それを目指して、やるだけだよ」と永尾。常に“限界”に挑戦し続ける、その原動力は何なのか? 永尾は静かにこう語る。

「プライドもあるし、応援してくれる人たちがいるから」と。そして、こうも付け加えた。「みなさんが呼吸をするのと同じように、私は走る。私にとって“生きること=走ること”なんです」

 リオの出場が叶えば、自身7度目のパラリンピックとなる。8年ぶりの大舞台で、いつものように颯爽と駆け抜けるその姿を楽しみに待ちたい。

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