冬季パラスポーツ日本の現状。世界王者・鈴木猛史が持つ危機感 (3ページ目)

  • 取材・文●斎藤寿子 text by Saito Hisako
  • 写真●越智貴雄 photo by Ochi Takao

 今シーズン、何度もそう感じたという。

「滑りの技術も、用具においても、世界のレベルがどんどん上がってきているんです。もしかしたら、今は日本よりも世界の方が進んでいるかもしれない。だから僕たちも、もっと新しいものを求めたり、滑る技術も上げていかなくていけません。今シーズンは、そう強く感じたシーズンでした」

 今シーズンの成績を見れば、回転において、世界で鈴木の右に出る者はいないと言っても過言ではない。だが、彼は言う。

「僕は世界に追いかけられている立場ではありません。僕が世界を追いかけているんです」
 
 この言葉から、いかに鈴木が危機感を募らせていたかがわかる。

 こうした「このままではいけない」という気持ちが、“儀式”を失わせてしまうほどの力みへとつながったのではないか。しかし、裏を返せば、こうした危機意識を持つことのできる鈴木だからこそ、彼は世界のトップであり続けているのだ。

 大本命だった回転で結果を出すことができなかった鈴木は、その日のインタビューをこう締めくくった。

「明日のスーパーコンビでは、回転がありますから、そこでリベンジします」

 その宣言通り、鈴木は3日目のスーパーコンビ(スーパー大回転、回転)で、2本合わせての合計タイムでは3位ではあったものの、回転ではトップのタイムをたたき出し、“スペシャリスト”としての意地を見せた。

「今、滑っていて、すごく楽しいんです。だから、もっともっと楽しく滑れるように、強くなりたいと思います」

 世界の“スペシャリスト”となった今もまだ、鈴木の向上心が尽きることはない――。

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