冬季パラスポーツ日本の現状。世界王者・鈴木猛史が持つ危機感

  • 取材・文●斎藤寿子 text by Saito Hisako
  • 写真●越智貴雄 photo by Ochi Takao

 有言実行の結果、鈴木はソチパラの回転で金メダルに輝いた。

 鈴木はその後も、この"儀式"を続けてきた。それが精神的な安定をもたらし、今シーズンの好成績の要因のひとつとなっていた。ところが、今回のジャパンパラの回転では、スタート地点で鈴木の笑顔は見られなかった。

「今日は全力でいくぞ」

 そんな強い気持ちが、鈴木に笑顔をつくる余裕を与えなかったのかもしれない。

 スタートから積極的な滑りで次々と旗門を通過していった鈴木だったが、ゴール手前のストレートに入るところで、予想以上の雪質の軟らかさに板が沈み、リズム変化に対応が遅れてターンしきれず、まさかのコースアウト。旗門不通過で途中棄権という結果に終わった。

「完全に僕のミス。この雪質に合わせて、もう少し優しいタッチで滑ればよかったですね。でも、攻めたうえでの結果ですから、仕方がないです」

 悔しさを押し殺すかのように、鈴木は笑顔でそう答えた。もちろん、ミスの要因をひとつに絞ることはできないが、スタートでの"儀式"が滑りに与える影響は決して小さくないことを、鈴木は改めて感じたはずだ。

 では、なぜ鈴木はこれほどまでに気合いをみなぎらせていたのか。その理由のひとつに、世界で抱いた危機感があったのではないか。実はインタビューで、鈴木が何度も繰り返し語っていた言葉がある。

「このままではいけない」

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