金メダリスト秋山里奈「私が東京パラに反対した理由」 (3ページ目)

  • 文●スポルティーバ text by Sportiva
  • 写真●五十嵐和博 photo by Igarashi Kazuhiro

伊藤 障がいのある人は何か特別な人たちという意識なのかもしれません。一方で、観客側として、私たちはどう向き合えばいいでしょう?

秋山 まず、障がい者スポーツをスポーツとして捉えてもらうというのが前提だと思います。もちろんスポーツとして見てくれている人はたくさんいるし、応援してくれている人は多いんですけど、何となくまだ、他のスポーツとは違うもの、特別なものとして捉えられている気がするんですよね。なので、選手側も働きかけて、もっともっと知ってもらわなきゃいけないし、マスコミの方も取り上げて、一般の人が「見てみたいな。一度行ってみたいな」って思ってくれるように持っていってもらいたいです。あとは、やっぱりオリンピックで水泳といえば北島康介さんとか、ハンマー投げといえば室伏広治さんとか、そういうスターがパラリンピックにもたぶん必要で、この人目当てで(見に来る)っていうのでもいいと思うんです。

伊藤 秋山さんが見てきた選手で誰かそういう人はいましたか?

秋山 ロンドンパラでは小人症のエレノア・シモンズ()という水泳の選手がすごく有名で、彼女が出てくると地鳴りのような歓声があがっていました。本当にスポーツとして捉えられているんだなって、そういうところでも感じました。
※イギリスの水泳選手。13歳で出場した北京パラでは100m、400m自由形で金メダルを獲得し一躍有名に。地元開催だったロンドンパラでは400m自由形、200m個人メドレーで金メダルを獲得。

伊藤 では、秋山さんの経験を踏まえて、思い描く理想の2020年東京パラリンピックの水泳会場の雰囲気はどんなものですか?

秋山 パラリンピックは、1位から8位の差がすごく開いてしまうレースがたくさんあるんですよね。だからその時に、8位の選手がタッチするまでみんなで応援して、タッチしたらみんなが拍手をして、フェアな空気が流れる会場であってほしいと思います。結果はもちろん大事ですけど、選手ひとりひとりアスリートとしてのストーリーがあるわけで、自分の国を応援するのは当たり前ですけど、自分の国だけを応援するようにはなってほしくないなと。みんなで盛り上げて、みんなで楽しめたら、すべての国の選手が「東京パラリンピックはロンドンに負けないぐらい良かった」って言ってくれると思います。

(おわり)
【プロフィール】
秋山里奈(あきやま りな)・写真右
1987年11月26日生まれ。神奈川県出身。
生まれつき全盲で、3歳から水泳を始めた。2004年アテネパラリンピックに初出場し、100m背泳ぎで銀メダルを獲得。2008年北京パラリンピックでは背泳ぎS11クラス(視力0)が廃止され、自由形で出場したが、50m8位、100m予選落ちという結果に終わった。2012年ロンドンパラリンピックでは再び背泳ぎS11クラスが復活し、念願の金メダルを8年越しで獲得している。

【プロフィール】
伊藤数子(いとう かずこ)・写真左
新潟県出身。NPO法人STANDの代表理事。2020年に向けて始動した「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」では顧問を務めている。2003年、電動車椅子サッカーのインターネット中継を企画、実施。それをきっかけにして障がい者スポーツと深く関わるようになった。現在、障がい者 スポーツ競技大会のインターネット中継はもちろん、障がい者スポーツの楽しみ方や、魅力を伝えるウェブサイト「挑戦者たち」でも編集長として自らの考えや、選手たちの思いを発信している。また、スポーツイベントや体験会を行なうなど、精力的に活動の場を広げ、2012年には「ようこそ、障害者スポーツへ」(廣済堂出版)」を出版した。

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