1日8時間練習し、400本を射るアーチェリー山内梓「音は聞こえず、自分の的しか見えない。そこまで集中力を高めてく」

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • 説田浩之●撮影 photo by Setsuda Hiroyuki

Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」
第12回:山内梓(アーチェリー)

2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなパフォーマンスで魅了してくれるのか。スポルティーバが注目する選手として紹介する。

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パリ五輪での金メダル獲得を目指す、アーチェリー山内梓 パリ五輪での金メダル獲得を目指す、アーチェリー山内梓 この記事に関連する写真を見る

 今も思い出すと悔しさがこみあげてくる。

 アーチェリー歴7年目で勝ち獲った東京五輪の出場権だったが、出場した全3種目で目標としていたメダルにはどれも届かなかった。

「特に個人戦は本当に悔しかったです。次こそは、と思っています」

 凜とした表情で山内梓(近畿大学職員)は、そう語る。

 2024年パリ五輪に向けて、東京五輪個人戦17位から彼女はどのように這い上がっていくのだろうか──。

【悔しさばかりが残る東京五輪】

「今は、もう1回、五輪に出たい。その気持ちでいっぱいです」

 山内は、東京五輪での結果を振り返って、そう語る。

 団体戦は5位入賞を果たしたが、個人戦は2回戦敗退で17位、混合団体は2回戦敗退で9位に終わった。日本というホームで、かつ試合会場の夢の島アーチェリー場で練習してきたアドバンテージがあったが、結果には結びつかなかった。

「個人戦でメダルを獲りたい気持ちが強かったんですが、反省点ばかりで......。風が難しい会場でしたが、そこでの判断力やフォームの安定感が足りませんでした。20%ぐらいしか力を発揮できず、根本的に力不足を感じました」

 山内には、もうひとつ悔しいシーンがあった。男子団体はメダルマッチに出場し、武藤弘樹がシュートオフの末、オランダを破り、銅メダルを獲得した。山内は、そのシーンを会場の観客席から見ていた。

「シュートオフの時は、ドキドキでした。メダルを獲った時は、すごいなぁと思いつつ、自分はあそこに立っていたらどうなったんだろう。自分もメダルを獲りたかったなぁと悔しさが募りました」

【中学では卓球部だった】

 1年以上経過した今も、まるでその時のように表情に悔しさをにじませる山内だが、アーチェリーの経験は、今年でまだ8年目だ。

中学では卓球部だったが、高校入学時、部活見学でアーチェリー部を見て、先輩の射(う)つ姿を見て興味を持ち、「高校から始める人が多いから頑張れば上に行けるよ」と言われ、入部した。だが、入部していきなり弓を引けるわけではない。最初は矢のない状態で弓を引く、いわゆる「素引き」で40秒間、停止し、それを3セットこなせたら「近射」という近い距離で矢を射つ段階に移れる。

「最初は素引きができなかったんです。ブレたり、引き手が弓から離れたり......そうならないようにずっと筋トレをしていて、半年ぐらい素引きしていました。10人いた同級生でできる子はもう矢を射っていたんですが、私はダメで新人戦にも出られなくて、一番最後にできるようになったんです。でも、やめたいとかは思わなかったです。同級生は仲がよく、部活が楽しかったので」

 1日200~300本の矢を射つ練習を積み、筋トレを継続していくと徐々に結果がついてきた。高校3年の時には、インターハイの団体戦で優勝を果たした。高卒後は就職を考えていたが、アーチェリーの強豪校である近畿大学から声がかかった。

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